過去ログ - 扶桑「私たちに、沈めとおっしゃるのですか?」 提督「そうだ」
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190: ◆bBUdJHUgklsz[saga]
2015/08/14(金) 00:49:36.84 ID:VYMpLEgk0


 弾飛び交う戦場において、その伸ばした手は何の為に。
 その意味もない行動に、扶桑はすぐに我に返り握り拳を作る。
 思わず叫びそうになった妹の名を、唇を噛みしめて押し殺す。
 
 その行動に、意味はない。
 手を伸ばしたところで、その手を掴めるでもない。
 名を叫んだところで、返事があるわけでもない。

 ここは、今もなお弾が飛び交い、血が流れる無情な戦場。
 沈んでいった者を偲ぶ時間など、ない。

 だからこそ、扶桑は一瞬だけ悲哀の顔を浮かべはするが、すぐに押し殺す。
 耳に聞こえるのは、敵の歓喜の咆哮。敵を仕留めたことへの、狂気じみた歓声。
 深海棲艦の士気が、今の攻防で最高潮へと達したのが見てわかる。
 空に向かって、叫び拳を振り上げ、艤装をガチャガチャと鳴らし威嚇する。
 そして、山城を沈めた、そのままの勢いで、標的は扶桑へと移ることだろう。
  

 悲しみに暮れる時間など、ない。与えてくれない。
扶桑は走り出す。山城のいた場所へ、走り、孤独に浮かぶ髪飾りを拾い上げ、深海棲艦から距離をとる。

 ――待っていて、山城……

 髪飾りを懐へしまい、十分に距離をとれたことを確認してから、敵と向き合う。
 もう、山城はいない。敵の攻撃はすべて、今度は自分に降りかかる。
 反撃の暇もほとんどなく、回避に意識を取られることだろう。
 そうなれば、いや、もう既に、と言ったほうが良いか。
 見えていたかすかな希望の糸も、既に千切れている。
 
 ――私も、すぐにそっちに……

 それでも、この戦場から逃げ出すわけにはいかない。
 山城は、立派に戦った。名誉ある死を遂げた。
 無駄になんかできない。いや、させない。
 
 今、この場には1人。
 しかし、戦う覚悟は2人分。
 背負った想いは、数えきれない。

 
「――来なさいっ」
  
    
 その眼に、諦めなど無く。
 爛々と闘志だけが燃えていた。  
 
 


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