7:野良猫 ◆oiBB.BEDMs[saga]
2015/05/06(水) 10:41:46.97 ID:JvRyHgVUO
†
入学して5か月。長いようで短い時間はあっという間に過ぎていた。
「これが製品になる最終的な状態のものだ」
渡されたのは、以前につばさが頼まれた学院紹介の映像を収めたディスクだった。
自ら出演したものが、初めて形になった物を手にするというのは、今までに味わったことのない達成感があった。
友人たちにディスクを受け取ったとメールで伝えると、二つ返事で全員から「見よう!」と言われた。
どこで見るかと瞬巡して、ふと、あんじゅを他の友人たちにまだ紹介していなかったことを思い出し、それならばとつばさは視聴覚室に全員を集めることにした。
いつかはと思っていたが、これは良い機会だとつばさは思った。
出会ってからというもの、つばさはあんじゅとの交流を深めていた。
よく一緒にお茶をしては、いろいろな会話に華を咲かせた。
殺伐とした芸能科に所属する二人にとって、その時間は気を許せる数少ないものだった。
「あんじゅってどこかのお嬢様?」
「どうしてです?」
お茶の最中、つばさは感じていた疑問をぶつけてみた。いろいろな会話をしたが、プライベートな質問はなんとなく避けてきた。
「何て言うかさ、あんじゅって気品みたいなのがあるからさ」
お茶を飲む仕草や言葉遣いに、自分にはない上品なものを感じていた。
「てっきりもうお気づきだと思っていました」
「どういうこと?」
「優木というお名前に心当たりはありませんか?」
問われて、つばさは記憶を辿る。
(優木……ゆうき……ユウキ……yuuki)
「もしかしてユウキ・コーポレーション!?」
「はい」
その会社は大手も大手、誰もが絶対に利用しているだろうし、その名を知らない者はいないだろう。
ユウキ・コーポレーションを示すY・Cのロゴがあまりにも定着していて、直ぐには思い浮かばなかったほどだ。
「でもどうして?」
世界有数の大企業のご令嬢がわざわざアイドルを目指す理由が思い当たらなかった。
「聞いちゃ不味かったかな……?」
ふと自分の言葉を思い返して、つばさは気まずそうにあんじゅへと目を向けた。
「いえ、構いません」
微笑んで答えるあんじゅはどこか寂しそうに見えた。
「このようなことを聞かせてしまうのは心苦しいですが……」
「何かあるなら話して欲しい。もしそれが歌えなくなる事に関係があるのなら、なおのことね」
つばさはあんじゅが本番で歌えなくなるのは、単に緊張しているからではないと思っていた。
「実は上手くいってないんです」
「家族と?」
「正確には父と、ですね」
伏し目がちにあんじゅは告げた。
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