過去ログ - 澪「グレイッシュ・ガール」
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44:名無しNIPPER[sage saga]
2015/05/12(火) 18:44:32.28 ID:+HxJNIVIo


――おじさんは話上手で、わかりやすく短く話をまとめてくれた。
まず、自分達の星は徹底された管理社会で、それを嫌って星を捨てる人は結構いた、ということ。


唯父「『モダン・ディストピア・ワールド』って映画を見たことはあるかい? あんな感じさ、生きる理由も目的も手段も、全てがあらかじめ定められ管理され、僕達に自由は一切無い。娯楽も無く、愛する相手も選べない」

    「しかしそのくせ、自由という言葉を知る機会はあったし、星を捨てて逃げ出すことに成功した人は割といた。半数くらいかな。移住する先は地球がいいという噂まで流れてくる始末だ」

    「管理しつつも選別するのが目的だったのかもしれないが、まあ、今となってはどうでもいいことだね。あの惑星に未練はない」


移住先に地球が選ばれていた理由は『人の外見が瓜二つだから』ということ。一時期流行ったタコみたいな異星人というのもどこかに実在するらしい。
そして平沢家が祖星を捨てた理由は『愛する相手を選びたい』というところにあり、同様に中野家のほうの理由は『娯楽という文化に憧れた』かららしい。特に私達が熱中しているような『音楽』という娯楽は斬新に映ったとのこと。
納得は出来る。目の前の夫婦はどこに行くにも一緒なラブラブ夫婦だし、梓のご両親も共にジャズ奏者だと聞いた。そのようなバックボーンがあるとすればごく自然な成り行きだ。
そして同様に、ラブラブ夫婦の娘である唯が皆に愛を振り撒き、誰からも愛される存在であることも。それでいて私との恋愛には臆病すぎるほど真剣になってくれていることも。
幼いころから音楽に触れていた梓が、その道に対して非常に真摯で一途であることも。その理由を知り、逆に祖星に持ち込みたいとまで思うほどに音楽を愛していることさえも。
全て、自然な成り行きだ。

……唯が梓を引き止める理由が、両親から聞かされた祖星の環境の話だった。なら、それを聞けば私も唯の心境が理解できるのではないか……
そう思って話を聞きたいと申し出たはずだった。
いや、実際理解は出来る。でも同時に今の話は、梓が祖星に音楽を持ち込みたいと思うほどにそれを好きな理由の裏付けでもあった。皮肉にも。
憂ちゃんや唯が梓を引き止めたい理由も、しかし強く引き止められない理由も、両方がわかってしまった。今の説明だけで充分すぎるほどに。


唯父「生憎、あの惑星の状態を写真に撮ったりは出来なかったから証明は出来ないけど。そのあたりはしっかり見張られていたからね、こう聞くと都合のいい話のようだけど」

澪「……いえ、疑うつもりはありません。ちなみにおじさんの目から見て、今は少しはマシになっている可能性とかは…?」


唯の意見の根拠も梓の意見の根拠も、どちらも痛いほど理解できた。なら、もしその根拠が全てひっくり返れば……?
当時はそうでも、今はわからない。もし今はもっと良い環境になっていれば、唯が引き止める理由もなくなる、あるいは梓が娯楽を広める必要もなくなる。どっちに転ぶかはわからないけど、前提が変われば全てひっくり返る。
……でも、逆に言えばこの程度の発想しか浮かばなかった。もしかしたら、という前提でしか意見できなかった。もしかしたら当時よりもっと酷い環境になっているかもしれないというのに。


唯父「無いと思うけどね。興味があるなら見に行ってみるかい?」

澪「え、えっ? そんな簡単に行けるんですか?」

唯父「もちろん簡単ではないよ。でも僕達や中野さんが乗ってきた宇宙船、いやUFOかな? まあどちらでもいいけど、それがちゃんと都心の奥深くに隠してあるから不可能ではないよ、という話」


ということは、梓や憂ちゃんも許可を得てそれを使う算段なのだろうか。思わぬところから仮説が出来てしまった。
でもまあ、そこは今は問題じゃない。というか、問題だったところはもう語ってもらってしまったのだけれど。


唯父「ただ、あまり望ましいことではないね。僕達は地球人として永住したいと政府に許可を得て居座っている。ありがたいことにすんなり許可は出た。そして僕達はそれに報いるため、信頼を得るためにこの星、この国で働いてきた」

   「なのにもう一度この星から出してくれ、と頼むのは、僕達夫婦を同じ職場に置いてくれたり、国外旅行の権利とかも日本人として扱うなど心優しい便宜を図ってくれてるこの国を裏切る行為に若干近いのは確かだね」


その言葉に、梓の表情がやや曇ったのを見た。
「事情を説明すればわかってくれるかもしれないけど」とおじさんの言葉が続いていたが、それを聞いても梓の表情は晴れはしなかった。
梓のことだ、自分の行動が親に迷惑をかけるかもしれないことくらいは想定済みだっただろう。親に止めろと言われれば止めただろうし、むしろ既に親に相談済みの可能性もある。
ただ、その件で平沢家までもを含む宇宙人全体が不利益を被る可能性があるとなれば、仮に親が許してくれていたとしてもなかなか割り切り難い事なんじゃないか、と思う。

もっとも、ここには若干の話の食い違いがある。おじさんの言う話はおじさんが頼んで私を連れて行く場合、の話だ。
梓や憂ちゃんが祖星を見たい、という場合はそれこそ「事情を説明すればわかってくれるかもしれない」。第二の故郷を見たいという気持ちは理解できる範囲のはずだ。
だが、梓という人間にとっては自分以外の人に迷惑をかける可能性を前にして、「かもしれない」程度の根拠では動けないのもまた事実なのだろう。



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