過去ログ - 澪「グレイッシュ・ガール」
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8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/05/12(火) 18:01:44.72 ID:+HxJNIVIo

【あの頃のこと】


――晶に聞かれた時の為に整理しておこうと思う。
まず、実は私が唯と恋人関係になったのは高校二年の時だ。
一年間一緒にいて、私は自分の気持ちが恋心だと確信を持った。そして2年時に告白した。
こんな性格の私にしては勇気を出したほうだと思う。

……なんて、過去の自分を美化してもしょうがない。
あの時の私は、一人だけクラスが別れてしまったことと、梓という可愛らしい新入部員の存在によって一人で勝手に追い詰められ、焦っていた。
クラス分けについては和がいたんだけど、当時の私にとっては何よりも軽音部の中で私だけが唯と離れてしまったことが大きかったのかもしれない。和の存在がとても大きな助けだったと気付くのはもう少し後のことだ。
梓については、まあ、よくある『唯を取られないか』という嫉妬だ。唯がかわいがっていたから。こちらもすぐ後に梓という人物が皆から愛される可愛らしさとひたむきさを持っているだけだと気付かされるのだけど。
とにかく当時、周囲がまるで見えていなかった私は焦り、混乱し、悩みながら告白の言葉を唯に告げた。
……確か、「宇宙で一番唯が好き」とか言った気がする。うん、コメントは止めてくれ。何も言わないでくれ。
でも、唯はその言葉にとても瞳を輝かせ、涙を流してくれた。要するに感動してくれた。思いっきり抱きついてくれた。だから結果的には良かったんだ、と思いたい。

ただ、その後もいろいろあって、夢の中の恋愛と現実の恋愛は良くも悪くもまるで違うんだということも私は知った。

まず、前述の告白の流れで一つ。告白された側が「私も好きだったの!」なんて答えることは稀なケースだということ。
後に聞いてみてわかったんだけど、唯は恋愛というものをしたことがなく、故に恋愛感情というものを知ってこそいたものの身をもって理解してはいなかった。皆を好きだった。
でも私に告白されて、唯曰く「嬉しくて、胸がウズウズして、何がなんだかわからなくなって、とにかく澪ちゃんを逃がしたくなかった」という気持ちが芽生えたらしい(狩人かお前は)。
私だって女の子だ、ずっと前から両想いだった、という恋愛に憧れを持っていた。でもこの場合に限っては、相手が唯だからそこまでショックでもなかった。
あんなに天然な唯なら恋愛感情というものをわかってなくてもあまり不思議じゃなさそうだし、逆にそんな唯に初めての恋愛感情を芽生えさせたのが私だと考えれば誇らしくもある。
一番悪い考え方をあえてしてみて、恋愛感情をわかっていない唯が、告白を受けて反射的に相手を好きになっただけ――いわゆる『刷り込み』のような現象――だとしても、だ。それは逆に、私が唯に愛される権利を持つ証明にしかならない。
仮に『告白してきた秋山澪』を唯が好きになったのだとしても、それだって他ならぬ『私』だ。私がそれを一番わかってるし、一番信じてるから、そこは揺らがない。
それが、当時一晩悩んで出した私の結論だった。



【数日後/ネットの海にて】


晶『マジで? 結構前から付き合ってたんだな』

澪『一応、今が3年目になるかな』


結局、「二人きりで会う時なんてまず無ぇじゃんか!」という晶の意見により、パソコンのチャットソフトを使って会話することになった。
現状、友達との会話は会って話すかメールで事足りるからこういうのはあまり詳しくない。ので、晶に言われるがまま『この為だけに作る適当なプロフィールの捨てアカウント』を作って会話している。
通話もできるらしいが電話番号のところは空白にしてあるし、メールアドレスもデタラメ。登録情報だけ見れば職業さえ不明な30歳男性同士が恋バナをしている光景、となる。
あっ、違う、晶のやつは職業『ホスト』ってなってた。そこはバンドマンじゃないのか!? っていうか30歳のホストってどうなんだ!? セーフなのか!?


晶『にしても全然気づかなかったな。お前らみんな仲いいし』

澪『まあ、あまり二人きりの時間とか取ってたわけでもないしな』


律やムギにもバレてないはずだから、付き合いの浅い晶達にバレないのはむしろ当然と言える。
ちなみに、バレてないのは徹底的に隠そうとしていたから……ではない。
晶には言わないでくれと頼んだけど、唯には頼んでいない。唯が明かしたいと言い出したら明かすつもりだった。もちろん恥ずかしくはあるけど、それが唯の望みならそうするつもりだった。
もし唯がベタベタしてきた結果、皆にバレる……ということになっても唯を怒るつもりもなかった。だから唯の行動を制限するような真似はしなかったし、そもそも元からしたくもなかった。
要するに、私か唯の口から言うか、あるいは自然に感付かれるか。そのどれかなら構わないと思っていた。
でも唯は何も言わなかった。何も言わないし、付き合ったからといって過剰にベタベタしてくることもなく。むしろ片想いの時期の私のように、たまに赤い顔で私を見つめるくらい。
そう、その行動はまるで、『私自身』を見ているようだった。誰かから見た私自身を。
そんなわけだから、関係はなかなか進展しなかった。まあ正直、関係が進むということはいろいろと恥ずかしいことも多いだろうから私としては助かってたんだけど……


晶『うーん』

  『余計なお世話かもしれないが、お前らそれで良かったのか?』

  『あっ、良かったからこの前あんなことになってたんだな、スマン』

  『本当に余計なお世話だった』

澪『いや、いいけど……「あんなこと」とかあまり言わないで……』

晶『おー、スマンスマン』


晶の言うとおり、なかなか進まずとも着実に進んではいたので、これでいいと思う。

それにしても不思議なもので、このソフトを使うのは初めてだけど意外と現実に顔を突き合わせているのと大差ない会話が出来ている。
まあ、私の周囲にいる人達はメールでも現実とあまり変わらないし(ムギが多少丁寧なくらい)、こういうものなのかもしれないな。


晶『でも本当に上手く隠してきてんだな。唯って隠し事なんて出来そうにないタイプだと思ってたが』

澪『私もそう思ってたよ、付き合うまでは』




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