12:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 13:41:42.82 ID:/StSlAX00
憲兵「それがこの混雑の原因なんだな?」
浜風「そうですね。人気を得たいならば、嫌われ者を手元に置いておくことが良いという例です」
憲兵「それでもこんな正義の怒声が響くには不十分に思える」
13:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 13:55:33.88 ID:/StSlAX00
憲兵「チェスかい?」
浜風「ええ。チェスです。これ以上とない比喩です」
憲兵「そうか」
14:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 14:19:13.95 ID:/StSlAX00
憲兵「お? 扉が開いたな。おお、おお。人がなだれ込んでいくじゃないか! ホースの先を細くすれば水は勢いよく出るが、人ごみでも同じだ。扉が狭ければ狭いほど勢いづく。違いは澄んだ水遣りは虹を作るが、澱んだ人ごみは何も作らないということだ」
浜風「しかし、彼らは満足しています。というのも、あんな狭いところを通過するんです、「狭き門より入れ」という美徳を実践している気になって自分の正義を信じて疑わないのですから。彼らにとって最高の美徳は人ごみに揉まれて雑巾のようになることです」
憲兵「瞬く間にあの正義のパレードが吸い込まれていった。酔っ払いの合唱団が消えたから、後に残るのは雀の小さなさえずりの通底音だけだ」
15:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 17:04:28.11 ID:/StSlAX00
憲兵「中は思ったより静かだな」
浜風「美術館という場所は沈黙しているだけで教養が高まった気がするので、わざわざ自分の知性がいかに洗練されているものか声高に言い立てる必要がないですからね」
憲兵「それにしても目当てのものは分かり易いな。人垣ができていやがる」
16:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 17:16:24.04 ID:/StSlAX00
憲兵「鎮守府ごとにハートロックは異なるが、あれはかなり特殊だな。丸い四角形の錠なんて見たことがない」
浜風「あれはこの作品を創った芸術家のオリジナルらしいです。正しく世に二つとない唯一無二の錠です」
憲兵「あれを単品で展示すれば良かったんじゃないか?」
17:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 17:55:30.31 ID:/StSlAX00
憲兵「この場合だと、錠が絵だとすると五十鈴が額になるのか?」
浜風「正確にはあの立て看板も含めて額です」
『ご自由にどうぞ』
18:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 19:08:45.45 ID:/StSlAX00
浜風「電車に老人がやってきて、誰も席を譲らない状況のように沈黙しています」
憲兵「困難な善行より容易い善行の方が時として為されえないということがあるということだ。さて、どれぐらいこれが続くかね」
浜風「小学校の演劇の主役決めに似た空気の重さです。みんなそれを指名されたら喜んで演じるだろうけれど、自ら名乗り出る勇気はない膠着状態です」
19:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 19:36:16.11 ID:/StSlAX00
浜風「拍手が起こっています。私達も拍手しましょう。彼の善意に」
憲兵「一気に和やかな雰囲気になったな」
浜風「しかし、係員が二人目の五十鈴を連れてきて台座に置きましたよ。また沈黙に陥るのでしょうか」
20:名無しNIPPER[saga]
2015/05/27(水) 00:32:19.17 ID:H3WN2z1p0
§
浜風「あれからあの展示は定期的に為されました」
憲兵「そうだな。連日美術館が遊園地のジェットコースター並の人気を得たという異常事態だった」
21:名無しNIPPER[saga]
2015/05/27(水) 00:44:24.03 ID:H3WN2z1p0
浜風「しかし、彼はもう展示をやめるらしいです」
憲兵「どうして?」
浜風「もう必要ないと言っています」
22:名無しNIPPER[saga]
2015/05/27(水) 00:54:00.59 ID:H3WN2z1p0
浜風「いいえ。お金ではないようです」
憲兵「金じゃない?」
浜風「………それと次の目的地はこの道でいいんですか?」
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