1: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:34:23.01 ID:Ee1SgV6S0
  
  ハリウッドでの撮影を終えて、国際空港のサテライトに降り立った。  
  乾燥したロサンゼルスとは違い、梅雨時特有のジメッとした空気が肌にまとわりつく。  
  あれだけ鬱陶しかった湿度が、数ヶ月海外で過ごしただけでこうも恋しくなるものか。  
    
  「お腹……空いたな……」  
    
  約10時間のフライトの2/3以上を寝て過ごし、その為、機内食も軽めの物しか摂っていない為、こうして日本に降り立った時、一気に空腹が襲ってきた。  
    
  「おにぎりあるかな?」  
    
  広い空港の中、どこに何があるかも分からない。  
  パパとママが迎えに来るまでまだ大分時間があるため、どこか適当な所で食事を摂りたい。  
    
  
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2: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:35:27.18 ID:Ee1SgV6S0
   
  検疫と入国審査の手続きを済ませ、手荷物受取場で自分のトランクを受け取ると、税関を抜け到着ロビーに出た。  
    
  少し歩くと空港内のレストラン案内図を見つけたので、自分の腹と相談しながら――――おにぎりがありそうな店を優先して――――見繕う。  
  アメリカでの生活で困ったのが、肉メインの食事になったことだ。  
3: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:36:42.04 ID:Ee1SgV6S0
  
 「貴音だったらラーメン屋に入りそうなの」 
  
 数ヶ月振りに会う仲間を思い出すのがラーメンなのは如何なものか。 
 しかし、そういうイメージが定着してしまったのだから仕方がない。 
4: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:37:45.13 ID:Ee1SgV6S0
  
 「回らないお寿司はちょっとお金が掛かりそうだよね……。それじゃあ、こっちにするの」 
  
 帰国したばかりで、懐具合が心許なかった為牛たんの店を選択する。 
 店の入口に立つと自動ドアが開き、女性の店員が出迎えてくれた。 
5: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:38:34.00 ID:Ee1SgV6S0
  
 時刻は正午を少し過ぎた所だが、店内に人の姿は少なく、あまり人気の店では無いのかと訝ったが、携帯電話の画面に目を落とすと今日が平日であることに気がついた。 
 そのまま携帯電話で店の情報を調べてみたが、それなりに人気店のようだった。 
  
 パパとママが来るまで時間があるとはいえ、そんなにのんびりもしていられない。 
6: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:39:46.83 ID:Ee1SgV6S0
  
 「国産牛タン塩焼き定食か……。ちょっと高い気もするけど、これにするの!」 
  
 値段は少しばかり張るが、帰国して最初の食事だし、大仕事を終えた開放感から奮発することに決めた。 
  
7: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:40:57.50 ID:Ee1SgV6S0
  
 「塩焼き御膳一つですね」 
  
 伝票に注文を書き、店員がそれをテーブルの伝票受けに入れる。 
  
8: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:41:57.41 ID:Ee1SgV6S0
  
 「まぁいっか」 
  
 過ぎた事を悔やんでも仕方がないと、水を手に席へ戻る。 
 ふと、帰国の報告をプロデューサーにしていない事を思い出し、再び携帯電話を取り出した。 
9: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:42:57.76 ID:Ee1SgV6S0
  
 控えめな文を打ち込み、送信ボタンを押す。 
 送信が完了した所で、先程の店員が定食を運んできてくれた。 
  
 「お待たせいたしました、国産牛タン塩焼き御膳です」 
10: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:43:39.85 ID:Ee1SgV6S0
  
 「牛たんはこちらのネギ塩ダレを付けてお召し上がりください」 
  
 角皿の上に乗っているのは牛たんだけではなく、小さな鉢にネギ塩ダレが、その隣には茶色の何か。 
 さらにその隣には白菜の浅漬が慎ましやかに乗せられている。 
11: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:45:31.42 ID:Ee1SgV6S0
  
 まずはメインの牛たんを、塩ダレに付けずにそのまま一かじり。 
  
 「あ〜むっ……んむっ……んぐっ……ん〜〜〜!! ほいひいの〜!」 
  
12: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:46:30.75 ID:Ee1SgV6S0
  
 テーブルの端に置かれた、とろろ用のタレを取る。 
 とろろにさっと垂らし、軽くかき混ぜ麦飯の上にぶっかける。 
 タレの色味が混じったとろろが、お椀の中でどろりと広がっていく。 
  
13: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:47:23.88 ID:Ee1SgV6S0
  
 「あぐっ……あむっ……ずぞぞ……んぐっ……ん〜〜……ひやわへなの〜……」 
  
 もちもちとした弾力のある麦飯の食感と、とろろが牛たんとご飯を包み込み、なおかつそこにタレの味が加算されている。 
 様々な味が交じり合い、しかも一つ一つがぶつかり合ったりせず、上手い具合に調和がとれていた。 
14: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:48:25.67 ID:Ee1SgV6S0
  
 まずはスープ。 
  
 透明度の高いスープは、中に細長く切った白髪ネギと小さなお肉が入っているのが見える。 
 また、表面には胡椒が浮かんでいた。 
15: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:49:54.44 ID:Ee1SgV6S0
  
 続いて白菜の浅漬に箸を伸ばした。 
 付け合せというには、少し量が多く乗せてある。 
  
 「あむっ……はむっ……は〜〜。こういうのでいいのこういうので」 
16: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:51:37.81 ID:Ee1SgV6S0
  
 どれも美味しいのだが、流石に喉が渇く塩辛さだったので、リセットついでに水をコップの半分ほど飲む。 
  
 一息ついた所で別鉢によそわれたそぼろへ。 
  
17: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:52:46.22 ID:Ee1SgV6S0
  
 一息ついた所で別鉢によそわれたそぼろへ。 
  
 「はむっ……んっ……しょっぱいの!」 
  
18: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:54:37.35 ID:Ee1SgV6S0
  
 「あとは、これ。なんだろう……?」 
  
 角皿の上に乗せられたネギ塩ダレの小鉢と白菜、その間にちんまりと茶色い物体が鎮座している。 
 所々に何か野菜のような物も見えている。 
19: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:56:16.44 ID:Ee1SgV6S0
  
 「びっくりしたぁ……。辛いとは思わなかったの……」 
  
 しかしこれが癖になる辛さで、不思議と嫌にならない。 
  
20: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:58:19.97 ID:Ee1SgV6S0
  
 塩ダレで食べた時と味噌で食べた時。 
 どちらもしょっぱいのは同じだが、片やマイルドに包み込み、片や荒々しく弾けるように。 
 二つの付け合せで全く別の顔を覗かせており、どちらも甲乙付けがたい。 
  
21: ◆sIPDGEqLDE[saga]
2015/05/31(日) 14:59:43.99 ID:Ee1SgV6S0
  
 「お会計3150円です」 
  
 値は張るが、それに見合う内容だった。 
 帰国して最初の食事に選んで大正解である。 
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