過去ログ - 途中で放棄したＳＳを供養するスレ -SS速報VIP

過去ログ - 途中で放棄したＳＳを供養するスレ

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36:名無しNIPPER[saga]
2015/06/01(月) 23:00:32.83 ID:y2fm6jqPo
[彼女は殺さずにはいられない]

暗澹とした鈍色の雲が空を覆っていた。午前中まで降っていた雨のせいで山中の地面はぬかるみ、むせ返るような腐葉土の匂いが立ち込めている。
ここまで歩いてくるのには、ばたばたと暴れる荷物のせいもあって非常に不都合だったが、人目につくわけにもいかない。
誤解をしないでほしいのだが、僕たち自身は見られても気にはしない。しかしこれから行われる行為は、一般人にとって、決してみていて気持ちがいいものではない。
だからこそ人目につかないところが僕たちには必要だった。

「ここでいい？」

「うん」

僕の先を歩いていた彼女は、振り返りながら僕の荷物に視線を移す。
言葉の抑揚のなさとは裏腹に、彼女はお子様ランチを目の前にしたような子供のように、眼を輝かせていた。
彼女は手に持っていた剣先ショベルを重力のままに手放した。自由落下したショベルが石に当たったのか甲高い音を響かせる。
僕も同じように引きずってきた大切なものが入った大きめのキャリーケースを無為に放る。泥が跳ね、僕らの服にまで飛び散ったがお互いに気にする素振りは全くない。
キャリーケースのジッパーを開けると、ごろりとそれは飛び出した。
両手を後ろ手で拘束され、両足も荒縄できつく縛られている。必死に逃げ出そうと身体を捩っているが立ち上がることすらできそうになかった。
地面を跳ね回る様子は、陸に打ち上げられた魚を彷彿させ、どことなく間抜けで失笑してしまう。
見た目は、１５歳くらい。もっと若いかもしれない。僕たちはその少年について、何も知らない。
彼女のアレがいつものように始まり、そのとき偶然にただ目についたから、背後から殴打し昏倒させ、キャリーケースに詰め込んだ。

「じゃあ、僕は穴を掘っておくから」

「わかった」

少年は眼から大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、なにかを必死に訴えてはいるが、生憎口も同様にきつく手拭いで縛られ塞がれている。
少年の絶叫は意味をなさない呻き声となって林の中へと溶けていくことしかできない。
僕が土を掘り返す音と葉擦れの音。そして、少年の悲痛なまでの呻き声が折り重なる。
彼女は懐から愛おしそうにサバイバルナイフを取り出した。
安全ケースから抜き出したそれは、まるで新品のように鈍い光沢を携えていた。
それを見た彼は、これから自身に起こるであろうことを想像してか、いっそう声を張り上げる。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね」

ショベルを拾い上げ、僕は穴を掘りながら、それでいて彼のほうへ顔を向けることなく、無意味な謝罪の言葉を発した。
その無意味で、自己満足ですらないその言葉を、僕は毎回口にしていた。

「これくらいでいいかな」

「はやく」

穴を掘り終えた僕をせかすように、彼女は僕の袖を引っ張った。

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