過去ログ - 途中で放棄したＳＳを供養するスレ -SS速報VIP

過去ログ - 途中で放棄したＳＳを供養するスレ

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37:名無しNIPPER[saga]
2015/06/01(月) 23:00:58.85 ID:y2fm6jqPo
「もういいよ」

僕の言葉を聞くと彼女は、いっそう目を輝かせ、ばたばたとのた打ち回る少年へと駆け寄った。
彼女は少年の頭を片腕で押さえつけ、右手にもったナイフを大降りに振りかぶる。
首筋へと振り下ろされたナイフは、少年の頸動脈を寸断し、彼の命を容易く終わらせた。
びしゃりと、生温い不快な粘性の液体が僕の顔へとかかる。
鼻につく生々しい鉄の臭い。目の前の『モノ』からは、その液体がとめどなく溢れ出し、僕の足元に赤黒い水溜りを作っていた。
最初の一振りで絶命している。だけど彼女は執拗にナイフを幾度も振り下ろした。
顔に、胸に、腹に、腕に、脚に。

彼女はナイフを人体へと振り下ろす。
僕はショベルを地面へと突き立てる。

その行為のどちらもが死へと繋がっている。そこに違いは何もないように思えた。
唯一の違いといえば、彼女がナイフを突き立てるたびに鮮血が飛び散り、あたりを汚すことくらいだ。

突然彼女は糸の切れた人形のように、だらりと腕を下げナイフを振り下ろすことを止めた。
終わりの合図だ。

「治まった？」

そう訊きながら、僕はただの肉塊と化したものを、掘っておいた穴へと蹴り入れた。

「うん」

彼女は、なんの感慨もなさそうに呟く。先ほどまでの、きらきらした目つきは嘘のように光を失っていた。
自分の行ったことも、打ち捨てられた命だったモノにも、既に興味がないようだった。

僕は、ついさっき掘り返した穴を、同じ土で埋めていく。

彼女は人を殺さなければ、死んでしまう。
彼女が生きるためには、人を殺さなければならない。
突発的に訪れる殺人衝動は、彼女の精神を蝕み死へと向かわせる。

この殺人は、僕たちが呼吸を必要とするように、食事を必要とするように。
彼女は、他人の命を欲していた。他人の命が必要だった。
自ら命を刈り取ることだけが、衝動を抑えることができた。

彼女にとっては家畜が人間になり替わっただけ。

「ごめんね」

もう一度だけ、呟く。
彼女も僕も、生きていてはいけない人間なのだろう。
世界から放逐されるべきは、僕と彼女なのだろう。

だけど僕たちは生きていく。
死にたくないから。死が怖いから。

ただの、人間だから。

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