363:名無しNIPPER[saga]
2015/07/23(木) 21:49:18.68 ID:jVTaH5bDO
「じゃあ、決まりね」
カレンは微笑んだ。
しかし、その直後──横顔に暗い影がよぎった。一瞬だった。距離が遠いのもあり、夕日で眩しかったのもある。よくは見えなかったのだが。
深い悔恨と苦悩の色。そして、なによりの疲労。いま言った事に対するものだろうか。
カレンは、ふとした瞬間にこういう表情をする時がある。租界を歩いている時、軽口を交わしている時、共に食事をしている時。
まるで、自分がここにいる事が間違いであり、それがとても罪深いと思っているような、そんな表情だ。
ごまかしようの無い異物感。
以前から気付いてはいた。だが口にはしなかった。それは彼女の根幹に関わる事だろうし、なにより、その横顔が好きだったのかもしれない。
(……いや、違うな)
きっと共感していたのだ。ライ自身、場違いな所にいると思っている。だから時たま零れるあの横顔に、居心地の良さを感じていたのだ。
「…………」
生徒会での時間を楽しいと思っているのは確かだ。許されるなら、記憶の事など忘れてあのメンバーに加わりたい。だが、それは許されない。甘い幻想を強い意志が打ち砕く。
許さない。誰が?
きっと、自分自身だ。
ならば──
「前に進むしかない、か」
誰に向けたとも分からない呟きは、紅い空へ昇っていく。ぼんやりと見上げていると、
「ほーら、置いてくわよ」
いつの間にか遠くにいたカレンから呼ばれてしまった。慌てて追いかける。
この時のライには知る由もないことだが────
シンジュクゲットー。
魔神が生まれた場所で、またも世界は大きく変わることとなる。
まどろみの終わりは、もうすぐそこまで迫っていた。
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