842: ◆QH3tH0UkImyM[saga]
2015/11/09(月) 23:17:33.65 ID:IXU7FTiDO
──またこの世界だ。
薄暗い空の下、乾いた風の中、荒れた大地の上。
大勢の人が泣いていた。物言わぬ骸に寄り添い、声をあげて泣いている。慟哭が空へと打ち上げられる。
そこら中が死体だらけだった。鉄色の空は小雨を降らせ続けている。ぬかるんだ大地はひたすら荒涼としていて、なにもかも拒絶する冷たさがあった。
周囲の人間に命じて、死体を集めさせた。敵も味方も、女子供も関係ない。ごみのように積み上げられた死体は、両の指では足らない数の山になった。
やめてくれと、誰かが叫んでいた。友なのだと、家族なのだと、恋人なのだと。許してくれと懇願された。埋葬も火葬も変わらないだろうに。意味が分からなかった。
薄汚れた鎧を着た兵士が抑えにかかるも、それでも声はやまなかった。
死体の山に近づいていって、慣れた手つきで粗末な油を撒いていった。全ての山に、自分の手で撒いていった。弔いにしてはあまりに出来が悪かった。
松明を受け取り、それを掲げる。消えない炎が役目を果たした者たちに明かりを灯す。
たちまち燃え上がり、辺りが明るくなる。気温は低かったが、炎の近くだけは暖かかった。それでも悲鳴は止まなかった。
一人ひとりのために墓など作ってやれない。そんな時間も金も土地も無いのだ。
死体を放置しておけば病が蔓延する。慢性的な飢餓や疫病に苦しめられている国なのだから、こういった処置は当然の事だった。死んだのなら早々に灰と化すべきだ。
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