11:名無しNIPPER[saga]
2015/06/28(日) 14:31:13.80 ID:u2/mmsTd0
『Hくん』
小学生最後の夏のこと。
夏祭りと呼んでいいかさえ微妙な、町内会の盆踊りの何日か前。
たしか、スーパーにアイスでも買いに行った帰りだったと思う。
クラスメイトなんていう関係は、夏休みに入ると、教室っていう場所がなかったら驚くくらい接点がない。
夏休みに入る前に言えなかったから、もう諦めていた。
だから、誰も居なかった往きと同じ帰り道に、当然みたいに彼女が立っていて、僕はただ呆然とするしかなかった。
あっちはたぶん気付いてないんだろう。
無愛想で、そのくせいつも自信なさげなあの子が、つぼみが開くみたいに自然に、笑みを浮かべていた。
全部を受け入れてくれるような、柔らかな表情。
チャンスだと。
そう思うよりも先に、見とれてしまっていた。
熱に焼かれ、ソーダ味のアイスが、ずるりと棒を伝った。
何滴かしずくが落ちた。
まるでその音が聞こえたかのように、彼女はこちらに気付いた。
その瞬間あの子は驚き――上がった花火が消えてしまうように――教室で見慣れた、気持ちまで閉ざしたようなあの表情に、戻ってしまった。
「久しぶり……どうしたの?」
関さんは、いい子だ。クラスメイトとして何か月か過ごしただけでもそれとわかるくらい。
それでもその表情は、僕みたいな気の小さいやつを蹴散らすには十分だった。
僕はああだかこうだか言って、逃げるように彼女を追い越して行った。走りながら千回も自分を責めた。
諦めたはずの『お祭り行こう』の言葉が、再び腹の底へ落ち込んでいくのを感じた。
それが、二年経った今もわだかまり続けている――あの子が今、遠く離れた場所で、笑顔を仕事にしているせいで。
もう、ひとつの接点さえないから、取り返しも、修正も、悪化だってしないまま、詰まった泥みたいに。
49Res/47.64 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。