7: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:22:49.53 ID:0ZQN8Z+c0
『……いやなんか、照れますね』
頬をぽりぽりとかいている姿が、簡単に目に浮かぶ。照れてる時は、彼はいつもそうしているから。
「照れなくったっていいんですよ? 本当のことなんですから」
8: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:25:20.01 ID:0ZQN8Z+c0
そうしてしばらく、私達は5年間の思い出話に花を咲かせていた。
5年間は長いようで短かったけれど、その間の2人の想い出は沢山ある。
初ライブのこと。
すれ違って、喧嘩してしまったこと。
CD・ダウンロード共に1位になったときのこと。
9: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:28:50.08 ID:0ZQN8Z+c0
それは、思い出話をしていたさっきまでとは違う、真剣な声色。
だから私も、真剣に返す。
「なんですか?」
10: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:30:59.68 ID:0ZQN8Z+c0
プロデューサーがいてくれたから、私はアイドルとして全力をつくせたと思う。
世間では人気のアイドルと騒がれたし、少しだけ――本当に少しだけ、その自負もある。
だからこそ、30歳という節目の誕生日にアイドルを『卒業』することに、後悔はなかった。
そして今までに後悔はないからこそ、後悔を残したくないと、そう思う。
11: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:32:35.36 ID:0ZQN8Z+c0
これで、電話は終わり。それじゃあ明日は頑張りましょう、おやすみなさい。ピッ。
……そんな空気が流れているのに、何故だか私たちはどちらも電話を切れずにいた。
けれど、何を喋るわけではない。ただ、電話を切ってはいけないような、そんな気がした。
たっぷり、1分は沈黙が続いただろう頃。
12: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:35:17.61 ID:0ZQN8Z+c0
その言葉に、どきりと胸が跳ねる。
「渡したいもの……ですか?」
『はい。その時に渡そうと、決めてたものです』
13: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:38:05.55 ID:0ZQN8Z+c0
私はアイドルで、Pさんはその担当プロデューサーで。
今までの関係は、はっきり形にできない……形にしてはいけない、アイマイなものだった。
でも、明日のライブが終われば、私にかかった魔法は解けて、ただの女性に戻る。
私達の事務所の象徴、御伽噺のシンデレラのように。
14: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:40:44.99 ID:0ZQN8Z+c0
「それじゃあ流石に明日に差し支えますし、そろそろ寝ますね」
『はい。僕も寝ることにします』
「それじゃ――」
15: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:44:52.75 ID:0ZQN8Z+c0
スマホから耳を放し、切断の文字をタップする。
ぷつりと電話は切れて、薄暗い私の部屋は再び沈黙に包まれる。
でも、もう寂しさは感じなかった。Pさんと話すことができたから。
まだ不安もあるし、緊張もする。
でも明日のステージは、最高のステージにできる。
16: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2015/06/14(日) 21:49:07.43 ID:0ZQN8Z+c0
おしり、じゃない、おわりです。
かなり短い、突貫工事で作ったものでしたが、少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。
そして楓さん誕生日おめでとう!!
17:名無しNIPPER[sage]
2015/06/14(日) 21:50:36.10 ID:GnYb7U9N0
こういう雰囲気いいね
乙
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