37: ◆D04V/hGKfE[saga]
2015/06/15(月) 23:47:40.89 ID:7IXBXgnJ0
「はい! あ、あと先輩」
別れの挨拶をしてさて帰ろうかというところで、ちょいちょいと招くように手を動かしている。
どうやらもう少し頭の位置を下げろということらしい。
仕方なしに一色の顔と同じ位置まで下げると、耳元でいつものような砂糖たっぷりの甘ったるい声で囁く。
『わたしが座ってた鞄の匂い、嗅いじゃダメですからね?』
「なっ!」
また明日でーす!とかいいながら改札口に向かって小走りで駆けていく。
改札を抜ける前にこちらをちらっと振り返ると、ぶんぶん手を振ってきたので放心しつつ小さく振り返す。
そのまま見えなくなるまでその場を動けずにいた。
耳元で呟かれたウィスパーボイスを思い出すと、思わず身震いしてしまう。
なんちゅー爆弾発言だよ……。
荷台に残されたままの鞄が、やけに存在感を主張してくる。せっかく意識しないようにしてたのに。
嗅がないからな。絶対に嗅がないからな。
あえてぞんざいにカゴに放り込んで、家に向かって走り出す。うしろに誰も乗っていない自転車はやけに軽く感じた。
その軽さが、先ほどまでここに彼女が存在していたことを伝えてくる。
声を聞いて、想いを知った。
想いなき声はひどく空虚でどこかの片隅にも置かれないものだが、彼女の声には熱があった。
こちらが浮かされるほどの熱量が確かにあった。
考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。―――そうでなくては、本物じゃない、か。
今の彼女にとって杞憂なのかもしれないなと、そう感じた。
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