過去ログ - 紬「カチューシャ、前髪を上げて。」
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43:けいおんSS[sage saga]
2015/07/01(水) 22:42:05.76 ID:CuC+Dd1t0

「ねぇ覚えてる?

 はじめてふたりで水族館に行った日のこと」

全面を水で覆われた空間は本当に水の底みたいで、降り注ぐ光はさまざまに屈折していてどこともなく光を放っている。
どっちが上なのか下なのか。左なのか右なのか。

「本当はわたし達、遊園地に行きたかったんだけど、雨が降っちゃって。
 すっごく楽しみにしてたのにいけなくなっちゃって」

ただ彼女が進む方向だけが前なんだろうな、って信じてついていく。
もしかしたら彼女は逆方向に進んでいるかもしれないのだけど。

「落ち込んですっかり出かける気をなくしてたあなたをわたしが、引っ張るようにして連れて行ったんだったね。
 ”今日は絶好の水族館日和よ!”なんて」

水の底には色がない。
わずかな光を受けた魚たちは、ぼんやりと曖昧な色を乗せて泳いでいる。

「でも考えることはみんな一緒で…すっごく混んでたね。
 魚を見に来たのか人を見に来たのかわかんなくなりそうだったけど、
 わたし達ずっと手をつないでたおかげではぐれずに済んで、よかった」

その中で唯一、一匹だけ真っ赤な魚がいた。
赤い色のおかげで、彼女だけはどこにいてもその姿を捉えることができた。

「わたし、実はちょっと気にしてたの。無理に連れて来ちゃったけど、あなたはたのしんでるのかな…って。
 でもあなた、目をキラキラさせて水槽を眺めてたから、わたし安心しちゃった」

彼女はどこを泳いでいてもわずかに他の魚から距離をとっている。
離れた場所から群れを眺めているようだった。

「あの頃まだ小さかったのに、あなたは色んな魚の名前を知ってて、ひとつひとつわたしに教えくれたよね。
 わたしがあなたを連れてきたはずだったのに、あなたがわたしを連れてきたみたいになっちゃって……たのしかったね」



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