過去ログ - 「童貞よ、お前に魔法を授ける」
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19:名無しNIPPER[saga]
2015/08/10(月) 22:52:48.54 ID:Zu9P1y/nO

「はっウッソ何、でぇっ!?」

「何がよ?!」

「何で全員全裸なのォオオオッッ?!」

叫んだ。
と同時に、さっきまで俺に関心を示していなかった『私』たちまで一斉に俺の方を向いた。
ああそうかこいつ等通行人だったな、と思う間もなく全員全裸だ。
服の上からの情報って案外当てにならないんだな、なんてどうでもいい感情が8割がた脳内を占めていた。

「えええっとぉお女の人の裸って初めて見たんですけど!俺のも見せた方がいいんですかね?!」

「何訳わかんない事言ってんのよ!!ぶっ殺すわよ!!」

ぶっ殺す……?

一瞬冷静になれたのは本当に良かった。
視界が安定した時にはギリギリで、一番活発に俺に肉薄していた『私』の手にあるナイフを捉えることが出来た。

瞬間!

「ちょっぶねぇええぇでええええッ!!」

振り切りを半ば尻餅で躱す。

何すんだコラ!危ねぇだろうが!
などと文句の言えるうちはまだまだ危機感が足りないのだ、と悟った。
今の一瞬だけで天国から地獄へ一転、周りにいる全裸の『私』たちなど全く目に入らなくなった。当然息子はしぼんだ。

口の中が乾ききり、喉はヒューヒューと掠れていた。

「まっ……がっ!」

喉がカラカラでうまく話せない。

「待って待って待って待ってマジで!!」

「クソ、かわされた……!」

かわされたじゃねえよ馬鹿野郎。
人にナイフを向けておいて何で冷静でいられる。
俺は恐怖だけで心臓を握りつぶされそうになったというのに。

刺さったら死ぬんだよゲームなんかとは全然何もかも全く違うんだよ!!
人間は殺したら死ぬんだぞ!!

「な、なん、で、ぃぉお俺を、殺そうとと、ひたんでしかぁ……?」

「決まってるでしょ。アンタが童貞だからよ」

瞳に一切の迷いがない。
初対面の俺を殺そうとして、躊躇なくそう言いきりやがった。
肌がピリピリ震え、全身の毛が逆立った。

チッ、これ以上は人目につく。
吐き捨てるようにそう呟いてから、女は赤髪を翻して逃げるように去っていった。

街の人はすっかり元に戻って、何事もなかったように通り過ぎていった。
俺は尻餅をついたまま、しばらくその場から動けなかった。


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