131: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:57:24.36 ID:s8phhYh5O
 凛は、自らの背中の向こうで交わされる会話に、心の中で、なるほどね、と呟いた。 
  
 先程の、『アイドルになりたい』と云う卯月の熱意ある言葉に、合点がいったのだ。 
  
 「へぇ、卯月は経験者なんだね」 
132: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:57:59.04 ID:s8phhYh5O
 面と向かってはっきりと云われるのは、凛にとって、とても気恥ずかしかった。 
  
 これまでずっと、似たようなことは云われてきたが、決まって邪な色が言葉に込められていたものだ。 
  
 しかし彼女から感じられるのは、美しいものをそのまま美しいと云う、素直な溜息だった。 
133: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:58:28.71 ID:s8phhYh5O
  
 更衣室から出てピアノの前に集合した三人に、麗が尋ねる。 
  
 「えーと、島村君に、渋谷君に、本田君だな。君たちはソルフェージュを触ったことはあるか? 
  島村君は養成所の経験があるようだから兎も角、私の記憶が正しければ、皆小学生の頃にやっているはずだが」 
134: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:59:02.17 ID:s8phhYh5O
 ただし卯月以外の二人は、 
  
 「正直に云えば、あまりよく憶えてませんけど……」 
  
 「あはは〜……わ、私も〜」 
135: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 01:59:54.97 ID:s8phhYh5O
 まず麗がお手本のラインを鳴らし、二回目のループで三人が併せて歌う。 
  
 軽快なテンポで、ステップを踏むようにフレーズが流れていく。 
  
 右手は軽妙かつ爽快なメロディ、左手はノリよく小刻みに揺れる伴奏。場を包む音は、ラグタイムだ。 
136: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:00:29.73 ID:s8phhYh5O
 中でも卯月は、さすが養成所に通っているだけあって、 
 安定してフレーズを追随出来ており、三人の中では特に良く通る声が出ていた。 
  
 しかし凛と未央の二人は、一般人と何ら変わらない普通の女子高生。 
  
137: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:01:24.27 ID:s8phhYh5O
 「なに、今は上手くやろうと気張る必要はない。リズムに乗って、喉ではなく身体から声を出してみよう。 
  それがとても楽しいことなのだ、と感じてくれればそれでいい。誰しも最初は初心者だ、恥ずかしがらずにな」 
  
 再び麗がピアノを弾く。今度は更に軽快でうきうきするような雰囲気が感じられた。 
  
138: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:01:58.66 ID:s8phhYh5O
 ラグタイムで弾いていたフレーズが、今度はカントリーミュージックの潮流となって麗を動かした。 
  
 その美麗な動きに、凛や未央は勿論のこと、卯月も口を開けて惚けている。 
  
 麗は若干苦笑しつつ、「さあ、みんな一緒にやってみよう」と促す。 
139: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:02:32.10 ID:s8phhYh5O
 リズムに合わせて足踏みを入れたり、腕を振ってみたり。 
  
 身体をひねり回したり、飛び跳ねたり、片足を軸に回転したり。 
  
 そのまま、様々な曲に合わせて、麗は色々な情景を、声で、身体で、表現する。 
140: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:03:06.51 ID:s8phhYh5O
  
 およそ一時間ほど身体を動かし、クールダウンを兼ねてストレッチをしている際のこと。 
  
 ぎこちない柔軟運動をこなす凛に、麗が訊く。 
  
141: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 02:03:34.05 ID:s8phhYh5O
 「ふむ、そうか」 
  
 麗は顎に手を添えて頷いた。 
  
 そして、その様子を不思議そうに眺め眉根を寄せる凛に気付き、 
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