過去ログ - 渋谷凛「私は――負けたくない」
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269: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:50:05.75 ID:s8phhYh5O
日頃のトレーニングでは、ビジュアルレッスンの項目で様々な感情の表現を練習してはいるのだが――
こと笑顔に関しては、そこですら満足にこなせないのだ、急に仕事でやろうとしたところで結果は云わずもがな。

この日の彼女は、『爽やかさ』『爽快感』とはおよそ懸け離れた体たらくだった。

以下略



270: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:51:02.31 ID:s8phhYh5O
結局、撮影スタジオを押さえられる時間の限界がきて、この話はご破算。

「だから私は愛想よく振る舞えないって云ったでしょ!」

「そんなこと云われたって、まさかここまでとは思わないだろ!」
以下略



271: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:51:42.25 ID:s8phhYh5O
やれ先輩の顔に泥を塗った、やれ前途が気がかりだ、やれ事務所の悪評が広がってしまう、エトセトラ。

ここが往来の多い道ではないのは、不幸中の幸いだろう。

社会人として、他人の面目を潰すのは最も重い行為だ。Pが語気を強めるのも、これまた無理のないこと。
以下略



272: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:52:09.16 ID:s8phhYh5O
「普通って何、普通って!? 私にとっては……この自分が普通なのに……!」

拳を握って、身体を震わせる。

確かに、Pが社長から渡された彼女に関する書類の注記欄には、無愛想を考慮すべきこととして挙げられていた。
以下略



273: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:52:43.37 ID:s8phhYh5O
凛の覇気が急速にしぼんだことで、Pはやや冷静さを取り戻した。

そしてようやく、目の前で弱々しい瞳が揺れている事実に気付いた。

アイドルは偶像で、商品であることに疑いの余地はあるまい。
以下略



274: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:53:33.04 ID:s8phhYh5O
Pのボルテージが下がり、凛も自分のしでかしたことを認識しつつある。

「……私も行く」

「いや、凛はもう帰ってゆっくりしとけ。明日もレッスンあるしな」
以下略



275: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:53:59.16 ID:s8phhYh5O
末端を伸び伸びと気持ちよく働かせ、万が一の際には先頭へ出て詫びる。

それこそが管理を負う者の務めと云うもの。

「だからって――」
以下略



276: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:54:45.72 ID:s8phhYh5O


――

「申し訳ありません。先輩の顔に泥を塗るようなことをしてしまって」
以下略



277: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:55:18.32 ID:s8phhYh5O
そんな一見ロマンチックな場所で、くたびれた背広姿の男二人が、
スターベックスからテイクアウトしたコーヒーを片手に気の滅入る話をしているのは、些か妙な光景だった。

平日だから一般客の利用者はそこまで多くないとはいえ――
たまたまこのタイミングにかち合ったカップルたちには、奇異に映るに違いない。
以下略



278: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:55:47.63 ID:s8phhYh5O
「やっぱり、そうなりますかね……あのクールビューティさは、中々の逸材だと思うんですが……」

「いや、そりゃ確かに先方からはキレイな娘、って要望があったけどさ、笑顔を出せないんじゃ話にならんだろ」

二度ほどカップを傾けて嘆息してから、大嶋は本音を隠すことなく云った。
以下略



279: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 03:56:13.32 ID:s8phhYh5O
不満の捌け口として、一言でも『新人アイドル』に文句を投げたくなる気持ちはわかる。

ただひたすらにPは平身低頭した。

「担当アイドルの不始末は、即ち全て自分の不始末であり責任ですので……」
以下略



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