538: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:40:51.46 ID:SScT0J3gO
「そ。トレーナーさんたちに教わっているのは、声を出す方法。俺のは、より綺麗に声を響かせるためのものさ」
と凛の前へ出て、「まず発声はな、ヨーヨーなんだ」と、腕を上下に動かした。
「ヨーヨー? ……ねえプロデューサー、ちょっと話が飛躍し過ぎてついていけない」
539: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:41:53.23 ID:SScT0J3gO
「延髄の辺りから、前方軽く上方へ放る意識を持って声を出してみ。顔の位置と向きはそのままで」
「首の後ろから斜め上に、を意識するんだね?」
「そう、そして単に放りっぱなしにするのではなく、ポーンと投げたら手綱をクイッと引き戻すんだ」
540: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:42:25.21 ID:SScT0J3gO
その瞬間、聖、明、慶の表情がピクリと動いた。そして勿論、凛も。
これまでとは違う、芯の通った音が始終安定して響いたのだ。
「ん、いい感じじゃないか。これが発声感覚だ。だいぶ変わったろ」
541: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:42:52.78 ID:SScT0J3gO
「反復練習すれば意識せず出せるようになるさ。次にメロディ感覚だが――」
Pが自らの鞄を漁って、白と黒の丸い石を取り出す。
「メロディラインってのはな、碁石なんだ」
542: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:43:40.13 ID:SScT0J3gO
「凛の歌い方ってさ、ラインが不必要に流れちゃってるんだよ。
良く云えば『スムーズなポルタメント』になるけど、実態は『メリハリなし』ってとこだ」
碁盤に碁石を置く動きを、Pが空中で行なう。その姿は些か滑稽だったが、Pは真剣そのものだ。
543: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:44:21.14 ID:SScT0J3gO
最初はやや暗中模索だったが、考え方を掴んだ瞬間があった。
その前後で明らかに声そのものとメロディの聞きやすさが変化したのだ。
「うわ……」
544: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:44:52.53 ID:SScT0J3gO
ヨーヨーと碁石――
一見、歌と何の関わりもなさそうな単語が、凛のボーカルを引き締めた結果に、一同が色めき立つ。
「なんでもっと早く教えてくれなかったの!?」
545: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:45:34.17 ID:SScT0J3gO
「それに……我流で身につけた感覚だからな、アドバイスすべきか否か、本当はさっきのさっきまで迷ってた」
頬を掻いて、ばつが悪そうに語る。
「でも、麗さんから、臆せず進むようこないだ諭されてさ。今がたぶん俺の出番なんだろうな、って腹を固めた」
546: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:46:02.50 ID:SScT0J3gO
「ねえプロデューサー、今日もう少し歌っていい? 喉を傷めない程度に抑えるから」
凛が、逸る気持ちを隠し切れない声音で、自ら居残りを願い出た。
おそらく、駄目だと云っても聞くまい。
547: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 16:47:01.75 ID:SScT0J3gO
――
ここはお台場、フジツボテレビの湾岸スタジオ。
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