734: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:30:40.94 ID:3+pD+bLQo
預けた荷物はないので返却場のターンテーブルは素通りし、札幌行きJRのホームへと向かう。
東京とはまるで違う構造の電車に、凛は驚いた。
「ドアが二重になってる……」
735: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:31:11.69 ID:3+pD+bLQo
なぜこのような旅行紛いのことをしているのか?
札幌に二店舗あるトワーレコードで、トークイベントを開催することになったためだ。
CDが爆発的にヒットしたことで、ジヤパン哥倫から急遽、大型連休中に全国各地で発売記念トークを行なう企画を得た。
736: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:31:37.13 ID:3+pD+bLQo
「――実は発売日にこっそり近くのお店を覗いたんだ。
そしたら特設コーナーがあって、立ち止まってくれる人も多くて」
アイドル衣装ではないが、普段よりややお洒落をした私服で、
737: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:32:06.96 ID:3+pD+bLQo
「ねえ、プロデューサー」
二箇所での仕事を終えて、帰京する時間まで札幌の街を散策するうち、凛が隣を歩くPに語り掛けた。
738: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:32:33.48 ID:3+pD+bLQo
Pは正直、そこまで考えてトークイベントの企画を進めたわけではなかった。
たまたまジヤパン哥倫からの「やらない?」と云う素案を具体化し、廻しただけ。
それでも凛が、そしてファンが喜んでくれたのなら、プロデューサー冥利に尽きるというもの。
739: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:02.92 ID:3+pD+bLQo
「……そっか。社長やプロデューサーにスカウトされて……もう、一年経つんだね」
流れで高校へ進学して、何の彩りもなかったときに現れた、妙なオジサン。
渋谷で当て所もなく抜け殻になっていた自分の前に現れた、妙な不審者。
740: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:31.76 ID:3+pD+bLQo
「プロデューサーには云うまでもないだろうけどさ、私、空っぽだったんだよね――」
卯月みたいに、小さな頃からアイドルへ憧れていたわけでもない。
未央みたいに、大勢の輪の中心で笑っていたわけでもない。
741: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:33:58.05 ID:3+pD+bLQo
「でもさ、それってプロデューサーと麗さんが教えてくれたんだよ。こんなに熱くなれるものがあるんだ、って。
プロデューサーが私の背中を押してなかったら、ステージに立つ緊張も、スポットライトを浴びる高揚感も、
歌う楽しさも……たくさんのことを知らないままだった」
――だから。
742: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:34:32.05 ID:3+pD+bLQo
普段はあまり自分のことを語らない凛が、珍しく饒舌だった。
それは、この一周年と云う機会を逃したら、もう伝えられないかも知れないという思いによるものか。
743: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2015/08/10(月) 21:34:59.51 ID:3+pD+bLQo
「……ちょっと花見でもしていくか」
ひらひらと舞う柔らかな花弁を全身に受けながら、Pは凛を振り返った。
ベンチの前に広がる大通公園は桜だけでなく様々な花が咲き誇っていて、とても彩り豊かだった。
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