6:名無しNIPPER
2015/08/10(月) 11:28:10.77 ID:dZXGURXQO
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多少のアクシデントが途中に挟まれてしまったものの、無事に響子とプロデューサーは仕事を完遂した。言うでもなく、突発的な事態に対処できた事に対して運営スタッフからは多大な感謝の言葉が並べられ、共にうまくいっただけですよという言葉が自然と漏れていた。
そして今。
「しかし響子。祭りで頑張ったご褒美が欲しいって」
「いいですよね? プロデューサーさん!」
「まぁ、無理のない程度に頼むよ」
と、祭りの興奮冷めあがらぬまま、響子はプロデューサーと共にとある場所へと向かっていた。彼女が祭りの全日程終了後、突然の事態に対処できたご褒美が欲しいとねだったからだ。
まぁ、とても頑張っていたしいいかとプロデューサーはそれを快諾したものの、肝心の目的地は告げられずのままである。
そして時は進み、時刻は夜の八時前。何がしたいのだろうかと勘繰っていた。連れ出した当人である響子は先ほどから誰かと電話をずっと続けている。
「うん……あ、じゃあ行くね。うん、ありがとう」
と、ようやく響子が電話を打ち切った。
「長電話お疲れ様。で、これからどうするんだ?」
「プロデューサーさんにちょっと見せたいものがあって。ついてきてもらっていいですか?」
「見せたいもの?」
と、響子が歩き出したのでプロデューサーも続くように足を進めだす。少し歩くと、一軒家に辿り着いた。
「え、まさか響子。見せたいものって」
「え!? いや、まだお父さんとかお母さんに挨拶するわけじゃないですよ!?」
「やっぱり実家じゃないか! え、見せたいものって実家だったの!?」
「い、いえ違います! えーと、違わないというか……と、とりあえずついてきてもらっていいですか?」
一応、家の中には入らないので。と響子は続けた。
実家に連れて来て、わざわざ家に入らないというのはどういう事なのだろうか。響子の後に続くとその理由も頷けた。
庭に梯子が取り付けてあったのだ。行き先は家の屋上――屋根上である。
「響子、こんなところに連れて来て何が」
「あ、プロデューサーさん始まりますよ!」
「えっ」
瞬間、暗闇に突然光が差し込んできた。光と共に響く爆音。
そう、花火である。
「……そうか、響子。見せたかったものって」
この花火だったのか。
しゃんしゃん祭りの最終日の夜には花火大会がある、と以前彼女から聞いていたのをプロデューサーは思い出していた。
「そうです。鳥取に戻ってきて、そしてこの季節なら――一緒に見たかったんです」
「……そっか。気付かなくてごめんな」
「いいんです。プロデューサーさんはちゃんと思い出してくれたから。私、嬉しかったです」
「響子。遅くなったけど、お仕事お疲れ様。それに」
お誕生日、おめでとう。
その一言が彼女にとって何よりの報酬だった。
ファンと一緒にステージを楽しめ、アイドルとして高みを一歩進めれたのは『アイドル』としての五十嵐響子の報酬。
そして、『一個人』としての五十嵐響子の報酬は、これで何よりも十分。
今日は八月十五日。しゃんしゃん祭り最終日花火大会の夜。
五十嵐響子はこの日ようやく自分がまた一つ成長できた事をかみ締めたのであった。
そして、彼女の日々はこれからも続いていく。
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