5:名無しNIPPER
2015/08/10(月) 11:27:44.87 ID:dZXGURXQO
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最終日も思いの他、順調に進んだ。
響子は満足のいくリハも出来ぬままではあったが、それを一切表に出す事もなく、進行を進めていく。
「さあ、次はなんと境港からお越しいただいた――」
刻一刻。彼女のソロライブの瞬間が迫る。
最早決断した事だ。時計の針は待ってくれない。秒針は一切の情け容赦なくその針を進めていき、分針はじわりじわりと、時針はカウントダウンを告げるかのように止まらない。
そして遂にその時がやってきた。
「はい! という事でありがとうございました!」
ステージを後にするパフォーマー。
本来、次は違う人物が歌い出す予定。しかし、そこには空席が出来た。既にスタッフ達の事前準備により、五十嵐響子が歌うという事は伝えられている。
しかし、観客達は動揺しているはずだ。当然だろう、元々五十嵐響子が歌い出すなんてプログラムはない。
致し方ないと思った。
しかし、彼女はアイドル。いついかなる時でも観客を魅了し、羨望の眼差しを集める者。
ステージ下の観客達の様子など関係はない。
ただ彼女が出来るのは彼女自身の全力を以て、観客を魅了していく事のみ。
「では次の方ですが……って私じゃないですか!」
と、観客を和ませようと響子がトークを展開していく。このしゃんしゃん祭りの思い出を彼女は語りだした。
それは響子なりに、ステージ下の観客との溝を少しでも埋めようとする行動で、パフォーマーなら誰だってしていくアクションの一つ。
徐々に観客達もそうだったといわんばかりの顔色に変わって行く。表情も自然と綻んでいた。
「それでは――鳥取県出身! 346プロダクション所属、五十嵐響子です! 私の史上初のソロステージを皆さん、楽しんで行って下さいね!!」
そして彼女のステージが始まった。
「皆さん、ありがとうございます!」
予定曲を無事に歌いきり、観客のボルテージは一気に最高潮だ。言うまでもなく、大成功である。
観客の声援を後に、響子はステージ袖へ移動した。
「響子、まずはお疲れ様」
「はい! ありがとうございます!」
汗だくではあるが、満面の笑みを浮かべる響子。とても充実していた時間だったのが一瞬で理解できた。
「どうだ? 自分の言っていた『何か』を見つけられたか?」
「まだ分かりません。でも、とても楽しかったです! ファンの皆さんと一緒にこんなに楽しいステージを送る事が出来て、とても嬉しいです!!」
「それならよかったよ」
アンコール! アンコール!
そんな声がステージ下から聞こえた。しかも、その声は段々と高まってきている。
今までのアーティスト、パフォーマーにここまでの声援はなかった。
プロデューサーの手が優しく、響子の肩に触れる。
「行ってこい、響子」
「プロデューサーさん」
「ファンの皆が待ってるぞ? アイドルがアンコールに応えなくてどうする。それに――あの光り輝くステージで見つけるんだろ? 自分自身が探している『何か』を」
「……はい!」
その元気な声と共に響子は再び駆け出して行く。
ステージからはかつてないほどに元気な響子の声と、ファンの歓声がステージ脇にも聞こえた。
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