36:乾杯 ◆ziwzYr641k[sage saga]
2015/08/21(金) 22:55:23.19 ID:XKRiySpR0
「お連れいたしました」
「どうも、お待たせして申し訳――」
詫びの言葉が途切れた。
スーツ姿の青年。その視線が、部屋の格式に似つかわしくない少女に固定された。
学生服、銀髪、線の細さ。青年が響を見下ろす。響が青年を見上げる。どちらも逸らさず、繰り返される瞬き。
「おう、遅かったな。ほれ、突っ立っとらんとそこに座らんかい」
「ああ、はい。では失礼して」
老公の一声で青年から動揺の気配が煙のように消える。響の対面に腰を下ろす。
細身の体躯。継ぎ目を感じさせぬ動作。短髪よりはやや長めの髪揃えに温厚そうな顔立ち。
相手を観察しているうちに、響はふと疑問に思った。
この男は自分が艦娘であることを、以前に、艦娘の存在を知っているのだろうか。
御大から事前の言い含めはなかった。いったいどのように接するべきなのか。
「それでは、ごゆるりと」
女将が柔和な笑みを浮かべてその場から下がる、襖を閉める。
足音が遠ざかるのを待ってから老公が襟を正した。
「そういえば、君らは初対面だったな。まずは響から、簡単に自己紹介してやってくれるか」
「わかりました」
簡単に。素性を明かすなという隠喩。
学生帽を小脇に抱えて膝を揃え、青年に真っ直ぐ向き直り、気持ち目を伏せた。
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