過去ログ - いろは「先輩と、アフタークリスマス」
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2:名無しNIPPER
2015/08/16(日) 17:36:40.66 ID:HDGh0YhN0
地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかというくらいに冷え切った朝だった。いっそのこと、むしろ率先してカチ割りたいほどだ。

とはいえ、カチ割ったらぬくぬくと布団の中で惰眠を貪ることもできなくなるのでやはり却下だ。

つまるところ一年のうち最も布団から出るのが億劫な季節、冬である。

より具体的に示すなら先生だかお坊さんだかが、あっちで手を取ってこっちで大騒ぎ、ほのぼのハーモニーみんなで奏でる……まではしないまでも世間が忙しくなる月、師走である。

母ちゃんは残業パラダイスなうえに家に仕事を持って帰ってくるし、親父は親父で部下の悪口をやたらと愚痴る。

……いや、後半はいつも通りだったな。俺は親父の血が入っているのでそんな上司になって部下を苦しめてしまうのかと考えると心苦しい。

心苦しいので、専業主夫になろう。なんて俺は心優しいのだろうか。専業主夫推奨の会を作ってノーベル平和賞をもらえるまである。

そんなことを考えながら、平和とは程遠い、冷たい冷たい水で顔を洗えば、夏よりも三割増しで目が覚める。

そもそも、冬の朝は夏に比べて三割増しで起きたくないので結果的には同等の目の覚め方である。ふむ、鏡に写るそこそこ整った顔、それを全力で邪魔しに来る腐った眼、いつも通りだ。

窓から見える快晴は否が応にも冬の気候を感じさせる。…………あー、学校行きたくねえ。早く帰りたい。

家に居ながらにしてホームシックになってしまった。こんなところもいつも通りである。

リビングに顔を出すと、小町が、淹れたお茶をテーブル上に並べていた。

ふむ、しかし、いつみてもわが妹は総武校の制服が似合っている。ベスト制服コンテストがあったらお兄ちゃん特別賞をあげたい。

小町「あ、お兄ちゃんおはよ」

八幡「おう、おはよう」

俺が席について数拍後、小町が席に着く。いただきますと二人で小さく唱和する。

のそのそとみそ汁や、ご飯を口に運びもそもそと咀嚼し、呑み込んだところで小町が静かな声で話しかけてくる。

小町「なんか……昔のお兄ちゃんにもどちゃったね……」

八幡「…………変わること、なんてのは結局嘘なんだよ。回りの環境が変わってそれに順応するために自分を誤魔化しているだけに過ぎない」

最近は受験勉強受験勉強アンド受験勉強でただでさえ少ない他人との会話がほぼ皆無になっている。奉仕部もとっくに引退した。

……故に、小町の言う戻ったというのは、完全ぼっちだった頃のことを指すのだろう。奉仕部を去ったときの空虚感は今でも拭い切れていない。

しかし、俺は去らずにはいられなかった。あそこまで踏み込んできてくれた二人が、それ以上を求めるのを感じ取ってしまい、怖くなった。

「本物」がほしいと言ったのは俺のほうだったのに。

俺が欲した「本物」はどうあがいたところで俺が手に入れられる代物ではなかったのだ。

小町「………………そっか」

心底残念そうに絞り出すように一言だけ返した小町は、食べる速度を加速させ、ものの数分で食べ終える。

おいおい小町よ、早食いは胃に負担がかかるとか誰かが言っていたぞ。お兄ちゃんは心配だ。

小町「小町生徒会の用事があるから先行くね。食器ちゃんと水につけといてね」

八幡「わかった」

食器を片し、カバンを背負うと小走りでかけていく。その様を横目で見送り一人だけとなった食事を再開する。

……誰だったっけな、食事は誰かと食べたほうがおいしいと言ったのは。


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