13: ◆2YxvakPABs[saga]
2015/08/19(水) 23:48:39.73 ID:jRTVHHoQ0
「ただ……」
下を向いたままのナナに、プロデューサーさんは、さらに言葉を投げかけてくる。
「どうやら、俺は結論を出すのが早かったらしい。安部の魅力は、1週間観察した程度じゃ把握しきれていなかったようだ」
「……え゛……?」
「みっともない顔するな。まだまだ可能性がありそうだ、と言ってる」
「……づ……んっ! つまり?」
「新・安部菜々の方向性は見直しだ。それまでは、『繋ぎ』でウサミン星人させてやる。次の案が浮かぶまでに、俺の考えを変えてみろ」
「プロ……プロデューサーさん」
「人の気持ちなんて、よっぽどじゃなきゃひっくり返らない。だけど、きっかけがあってじわじわと変わっていく、そんなのもアリだろ。何も、1回で人生観を変えてしまうだけがアイドルじゃない」
「ふっ、素直じゃありませんね」
「うるさい、お前は黙ってろ。というか、『元』プロデューサーはとっとと帰れ。自分のアイドル放ったらかしにするな」
「そうですね。じゃぁ、僕はここで。菜々さん、僕はプロデューサーとしてではなく、あくまで一個人として、貴女を応援していますよ」
それだけ言うと、元プロデューサーさんは去ってしまった。
去っていく彼の背中に、ナナは頭を下げた。今大きな声を出せば、ごちゃごちゃになった気持ちが溢れてしまうと思ったから。
彼が去ったのを見送ると、ナナはプロデューサーさんと2人きりになる。
しばらくは沈黙が続き、無言のまま控室へと戻った。なんと声をかければいいのかわからなかった。
「プロデューサーさん。本当にごめんなさい」
ナナは、部屋に入るとまっさきに深々と頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。
あぁは言ってくれたが、ナナのしたことは明らかに悪いことだとちゃんとわかっている。
だから、とにかく先に謝るべきだった。
「あぁ、二度とするな。次はないからな」
「はい」
「俺も忘れていたよ。アイドルの意見を聞くってこと。いつの間にか、自分の意見しか通そうとしていなかった」
「プロデューサーさん……」
「これからは、お前の意見にもちゃんと耳を傾ける」
「……はいっ!」
ようやく、プロデューサーさんと近づけた気がした。
出会ってまだ2週間だ。まだまだお互いわからないことの方が多い。
だけど、アイドルとして、今のナナのまま、歩んでいきたい、ナナはそう思わずには居られなかった。
「時に、新しい安部菜々の方向性をより子供っぽくしようと考えているんだが、お前はどう思う?」
「……はい?」
「ライブを見ていた思ったんだ。歌う姿が子供みたいに純粋だなと。だから、もっと子供っぽさをアピールしてだな」
「ちょちょちょっ! プロデューサーさん!? しばらく先送りにするみたいな事言ってませんでした?」
「次の案が浮かぶまでに俺の考えを変えてみろとは言ったな。きっかけがあってじわじわと変えていくのもアリ、とも言った」
「だったら!」
「アホか。案など次々に浮かぶぞ。人の気持ちを変えたいなら、じゃんじゃん来い。次の案が浮かばないくらい、今のお前が最高だと俺に思わせてみろ。もちろん、意見もちゃんと聞いてやる。で? 子供っぽく行く方向はどうだ?」
「も……もうちょっと時間くださいーー!!!」
プロデューサーさんと少し……いや、だいぶ近づけた気がした。
本当のナナも知ってもらえた。
今、目の前にいるプロデューサーさんも本当の彼なのだろう。今までの彼は、結果を出すことだけにこだわっていた……のだと思う。
だから、ナナのライブで、少しでも本当の彼を引き出せたのなら、それはとても嬉しい。安部菜々というアイドルに、それができるくらいの力はあったということだ。
ただ……なんだろう、この、いじめられているような感覚は。プロデューサーさんって、実はちょっと子供っぽい人?
ナナを虐める彼の方が、よっぽど、シンデレラの姉のようではないだろうか。
でもまぁ、ナナは負けない。
彼の考えもいつか必ず変えてみせる。
今の……この、ウサミン星人安部菜々こそが、一番最高の私なのだと、彼にもファンにも必ず分からせてみせる。
ナナはいつか、本当のシンデラレになると、今なら胸を張って言える。
私は安部菜々。人々に夢を与える声優アイドルを目指す、1人のウサミン星人だ。
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