12: ◆2YxvakPABs[saga sage]
2015/08/19(水) 23:48:04.75 ID:jRTVHHoQ0
――*――*――*――
ライブが終わり、舞台裏へと降りる。
観客たちの声援も、かかっている音楽も、もうナナに向けられたものではない。
少し離れれば、まるで別世界のように音が小さくなっていった。
その廊下の先に、プロデューサーさん達が並んで待っていた。明るいところから急に暗い所に出たため、彼らの表情はよく見えない。
だから、ナナは恐る恐る聞いた。
「あのぉ〜、怒ってます?」
「当たり前だ!!」
「ひぃ! ですよねごめんなさい!!」
「訳を聞こう。なんでこんなことした?」
腕を組んでふんぞり返っているプロデューサーさんは非常に怖い。
あぁ、ほんの数秒前まではやりきった達成感に包まれていたというのに。これも、悪いことだとわかっているからなんだろう。
こんな気持ちになるのは、子供の時に親に隠し事がバレた時以来だ。
「プロデューサーに知って欲しかったんです。今のナナが、作り物じゃない、紛れも無い本当のナナなんだって」
「キャラは作ってるだろ」
「そういうことじゃなくて、それも含めて、ナナというか……」
「じゃぁ、なんでわざわざライブでだまし討ちみたいな真似をした」
「……ナナのライブで、プロデューサーの考えを変えたかったんです」
「何?」
「貴方1人の心も動かせないようじゃ、貴方の言うとおり、ただの自己満足だと思ったからです」
ナナは、まっすぐにプロデューサーさんの目を見た。
彼は威圧するように、ナナの視線に自分の視線をぶつける。
隣にいる元プロデューサーさんは、何も干渉してこない。ただ、そこでじっと見ているだけだ。
やがて、プロデューサーさんは視線を外し、ふぅっと息を吐いた。
「そうか」
「……」
「なら、それは失敗だな」
「…………え?」
「俺の根本的な考え方はまるで変わっちゃいない。やり方は非効率だと思うし、お前の魅力も、今のままじゃ伝わり切らないと思っている」
「そう……ですか」
ぐっと、唇を噛み締めた。
悔しい。
一生懸命やった。ナナの全力をぶつけた。だけど、プロデューサーさんには届かなかった。
今の顔を見られたくなくて、思わず顔を伏せる。こみ上げてくる気持ちが、目元まで這い上がってきた。
じわりと目元が熱くなる。
ウサミン星人を止めなきゃいけないのが辛いじゃない。アイドルとしての無力さを、思い知ったから辛いんだ。
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