過去ログ - モバP「花物語」
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20: ◆Freege5emM[saga]
2015/09/13(日) 21:57:50.82 ID:heJa7yVRo

●【桜】

※鷺沢文香
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私が所属する事務所は、最寄り駅からの道のりの途中に、小さな公園があります。
その公園は、春になると桜が咲いて……といっても、お花見スポットと呼べるほどの本数はなく、
近所の幼稚園児が春にたむろする程度の、ささやかな桜です。

あるうららかな春の日、出先から事務所へ帰る途中だった私は、
少し時間に余裕があったのに乗じて、公園へ寄り道しました。



公園の桜は、既に盛りを過ぎていました。
見物人もおらず、花弁が地面の上で白い斑点のようにばらばらと散らばっていました。
花を愛でるには、訪れるのがいささか遅かったようです。

土で薄汚れてしまった花弁たちが、無性に惜しく感じられて、
私は腰をかがめてそれらを拾い集めていました。



「東京の桜は、信州に比べると気が早い……そうは思わんかね、文香ちゃーん☆」

「あ……し――は、はぁとさん……」

「そう、はぁとだぞ☆ こーるみーはぁと! じゅまぺーるはぁと! だからね☆」

「英語はともかく、フランス語だと『はぁと』の『H』を発音しませんが……」



私が顔をあげると、同じ事務所のアイドルである佐藤心さんが立っていました。
心さんは私と同じ長野出身ですが、私より七歳年上。
進学を気に去年上京した私よりも東京暮らしが長く、信州の春を懐かしむ気持ちが強いのでしょうか。

それはそれとして、地に落ちた桜の花弁を拾っている、
というなかなかの奇行を見られた私は、決まり悪く苦笑いしました。



「信州は春が遅いですからね……今の時期がそろそろ見頃でしょうか」

「そうそう、気が早いっての☆ ……ところで、文香ちゃんはなんで桜を拾ってたの?」

そう言いつつ、心さんは私よりも一回りほど高い背を屈めて、
私と同じように花弁を一枚拾いました。

「……枝から散ってしまった花でも、もう一度くらい宙に舞い上がったらいい……と思ったのです。
 ただ一度ひらひらと落ちていくだけでは……寂しくて、惜しいのです」

「ふーん。ブンガク少女と桜の取り合わせなだけあって、流石にポエミーな響き……
 これ、はぁとが同じコト言ったら意味が変わっちゃうよオイ☆」

「散った桜については……少し、思うところがありましてね……昔の話ですが……」






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