5: ◆Freege5emM[saga]
2015/09/07(月) 03:07:41.88 ID:DhP+ihnQo
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わたしがしゃべるだけしゃべり終わると、クラリスさんは、
「智絵里さん……少しだけ、待っていてくださいますか?」
と言って立ち上がると、わたしたちが座っていたベンチの裏手に歩いて回りました。
何だろう……と思って、わたしが振り返ると、
クラリスさんは背が低い草が生えているあたりで、しゃがみ込んで地面を眺めていました。
「……何を、されているんですか」
「四つ葉のクローバーを探しているんですよ。手伝ってくださいますか?」
わたしは、クラリスさんの周りで、白く小さな花びらが丸く重なったクローバーの花が、
数えきれないほど揺れているようすを見ました。
ああ、今って、春なんだ……とわたしは呟いていました。
クローバーが咲いてるってことは、もう春も終わりだったのに、いまさら気づいたなんて。
わたしはクラリスさんと並んで、無心で四つ葉のクローバーを探しました。
何故それを探しているか、意味は分かりませんでしたが、それはとても落ち着く時間でした。
「智絵里さん。クローバーは普通、三つ葉ですよね?」
しばらくたって、クラリスさんがまた話しかけてくれました。
「私どもの古い言い伝えでは、三つ葉がそれぞれ、父なる神・キリスト・聖霊を表していて、
それらが一つである三位一体を示す、などという例もありますが……では、四つ葉は?」
クラリスさんがわたしへ問いかけた瞬間、わたしの目はクローバー群の中で、
四つ葉のそれが一つ、春風に揺れている様を捉えました。
わたしはキリスト教のことはさっぱり分かりませんでしたが、
その様は、いつだったかクラリスさんが下げていたロザリオの形を連想させました。
「四つ葉は……十字架、でしょうか?」
「よく言われるのは、そちらの意味合いですね。もしや、ご存知でしたか?」
「……いいえ、ただ思い浮かんだだけで……」
たまたま言い当てただけなのに、クラリスさんが嬉しそうに声を高くするものだから、
わたしは気恥ずかしくなって、会話を打ち切って四つ葉のクローバーへ右手を伸ばしました。
「見つけた……四つ葉、です」
「あら……やはり幸運は、求め訴える者のもとへ降りてくるのでしょうか?」
わたしの手のなかの四つ葉を見ながら、クラリスさんは冗談めかして微笑みました。
「四つ葉は、三位一体に見つけた人自身を加えたもの、という見方があります。
父なる神・キリスト・聖霊が、いつも自分とともにある幸せを示す……これが幸運の象徴の由来、だとか」
「……そうなんですか?」
聞きなれない説法に首を傾げたわたしを見て、
クラリスさんはわたしの手に――四つ葉を乗せた右手に――彼女の手を重ねました。
「もっと、ざっくばらんに言ってしまえば」
その手の暖かさが、とても優しくて……
「辛い時も、苦しい時も……いつだって貴女は一人じゃない、ということですねっ」
クラリスさんの言葉が届いた瞬間、わたしは、つい涙をこぼしてしまいました。
けれども、恥ずかしさや決まり悪さは感じませんでした。
一人のときと違って……そう、一人じゃないなら、泣くのも辛くはありません。むしろ……
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