過去ログ - モバP「花物語」
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8: ◆Freege5emM[saga]
2015/09/07(月) 03:10:04.71 ID:DhP+ihnQo



私が小学校高学年だった、春の連休。
私は両親とともに、神戸に住む祖父母の邸宅を訪れていました。

兵庫出身の小梅さんには、わざわざ言わなくても通じましたが、
神戸という土地は、港や住宅街の風景が有名な一方、実は山――六甲山が近い土地です。
祖父母の邸宅は、その山に近い旧家の屋敷で、その周りをからたちの垣根が囲んでいました。

北海道育ちの私は、からたちを見たことがありませんでした。
(漢字で枸橘と書くように、からたちはミカン科の温帯植物です)
それで私は不用意に手を伸ばして、青い青い棘に指先を刺されて痛い思いをしました。

その時、母が苦笑しながら『からたちの花』を歌って聞かせてくれました。
北原白秋と山田耕筰の、あの歌です。



――からたちの花が咲いたよ
――白い白い花が咲いたよ

――からたちの棘は痛いよ
――青い青い針のとげだよ

その旋律は、私が見た光景――五つ星のように開く花弁や、まきびしのような棘とは違う、
黄昏のような色の響きでした。あとでからたちの実を見た時、ああこれだ、と思う色味でした。



祖父母は鳩レースをやっていたらしく、洋館のすぐ隣に鳩舎を設けていて、
私のそのなかの真っ白い一羽と仲良くなりました。名前は『ニンバス』といいました。
ミッションスクールに通っていた祖母がつけた名前のようです。

私は、当時から森の中を歩くのが大好きな子供でした。
私は朝起きると鳩舎を訪れて、ニンバスの機嫌が良ければ、
そのまま六甲の森を一人と一羽で遊び場として、日が落ちるまで過ごすこともありました。




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