過去ログ - モバP「花物語」
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9: ◆Freege5emM[saga]
2015/09/07(月) 03:10:59.07 ID:DhP+ihnQo




そんなある日のこと、ニンバスはどこか遠くへ飛んでいきました。
そして、空がからたちの実の色に染まる夕方となっても、白い鳩の姿は鳩舎へ戻りませんでした。

もしかして、ほかの動物に捕らえられてしまったのではないか……
幼かった私は、たいへん胸を痛めていました。

月が昇る頃になっても、私は夕食も上の空で、
神戸の街明かりが微かに反射した夜空を窓越しに見上げて、ニンバスの無事を祈りました。



不安でよく寝付けなかった私が翌朝目覚めると、もう太陽がかなり昇っていました。
私が、ひょっとしたら……という希望を持って鳩舎に向かうと、

「音葉や、ニンバスは帰ってきたよ」

と、既に鳩舎へ向かっていた祖母が、私に嬉しい知らせを聞かせてくれました。
ニンバスは傷どころか疲れさえ見せず、心配していた私をからかうように甘えてきました。

私が咎める様子を見せると、ニンバスは朝日に向かってふわりと舞い上がりました。
つられて視線を上げた私は、後光のような日光に目を射られて、目を細め……

そこで私は、ニンバスの足に何かひらひらとしたものが靡いていることに気づきました。
調べてみると、それは濃い青紫色の花弁がひとひら、細い細い紐で結ばれたものでした。



ニンバス――白い鳩を捕らえて、細い足に、まるで伝書鳩にするように紐を括りつけて、
そこに託したものは、菖蒲か杜若を思わせる青紫……。

顔も知らぬ人から送られた可憐なメッセージは、幼い私をいたく感動させました。

ぜひとも、その送り主を知りたい――そんな使命感に燃えた私は、
ニンバスが六甲の空へ飛んでゆくのを見ると、
祖父母に近在の地図をもらって、白い鳩の行方を探して回りました。



たかだか小学校高学年の女の子が、森のなかを一人で一日中歩くなんて……
今思えば、祖父母や両親がよく心配しなかったものだ、と思います。

もしかすると、祖父母はメッセージの送り主に見当がついていたのかも知れません。
というのも、私は思ったよりもあっさりと、ニンバスが送り主の元へ降り立つ姿を見ることができたのです。




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