過去ログ - 白菊ほたる「かげろう、プロデューサーさん」
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12:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:42:32.88 ID:cI/SoD+oo
 ――プロダクションに所属するとき、どうしても登録料が二万円必要なんだ。

 俺がデタラメを言うと、ほたるちゃんは「両親に相談してみます」と眉をハの字にした。

 二万円か。彼女くらいの子どもには途方もない大金だろう。
以下略



13:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:42:58.96 ID:cI/SoD+oo
 名刺はない、会社の名前も聞かなかったと言うし、ほたるちゃんが持っているのはメモに殴り書きの電話番号だけ。
 そして、登録料に二万円? 怪しい。
 ほたるちゃんの両親がよほどのバカでなければ、本当にスカウトマンだったのか確かめようとするだろう。
 いや、それさえしないはずだ。

以下略



14:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:43:25.97 ID:cI/SoD+oo
 翌朝、目を覚ますと携帯電話に留守録が残っているのに気がついた。
 再生してみると、ほたるちゃんの泣きそうな声が聞こえた。

『――反対されたんですけど、私……アイドルに、なりたいです。
 あの、両親は……やめなさいって、言うんですけど……。
以下略



15:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:44:20.74 ID:cI/SoD+oo
「二万円かー」

 結局、最適解は見つからないまま、朝食を食べ終わる。今日は何時間働くんだっけ。

 隅に脱ぎ捨てたままのスーツが目について、拾い上げる。
以下略



16:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:44:52.05 ID:cI/SoD+oo
 ――――

 一週間という一括りはいつからか空っぽのハリボテになっていた。
 バイトに行って、寝て、何曜日と何曜日が休み。
 待っているものはなく、ただ老いと死まで続く一本道を無感動に歩いているだけ。
以下略



17:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:45:22.95 ID:cI/SoD+oo
 この一週間、バイトが終わってから携帯電話を見ると、いつも留守録が残っていた。
 ほたるちゃんからだった。

『――お願いします……連絡、待ってますから……私、本当に、アイドルやってみたいんです……』

以下略



18:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:45:52.70 ID:cI/SoD+oo
『――お金、きっと用意します……私のお小遣いじゃ、全然足りないですけど……。
 今、二千円だけあるので……全部用意できるまで、どうか待っていてもらえませんか……』

 自分がほたるちゃんと同じ歳の頃、二千円はどれだけ大金だったろう。
 必死に思い出してみて、それから二万円という金額の大きさに涙が滲んだ。


19:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:10.76 ID:cI/SoD+oo
 ほたるちゃんと出会ってから一週間が経った、夜勤明けの朝。
 今日も、留守録が残っている。やっぱり、ほたるちゃんからだった。
 いいかげんにしてくれ、と思う。俺は、君の期待には応えられない。
 全部嘘だったんだ、早いとこ諦めてくれないか。どうだ、ひどい男だろう。

以下略



20:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:36.62 ID:cI/SoD+oo
 携帯電話の鳴る音に気づいて飛び起きたのは多分、ほたるちゃんのことが気にかかっていたからだった。
 もしもし! なんて電話を取ったけれど、この間スーツを預けたクリーニング屋だった。

 肩透かしを食らって、気の抜けた受け答えをしつつ、横目で時計を見るとまだ正午過ぎだった。
 ほたるちゃんが電話をしてくるとしたら、学校が終わってからだろうから、まだ早い。
以下略



21:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:02.08 ID:cI/SoD+oo
 餅は餅屋と言うが、流石はプロだと思った。
 コーヒーの染みも、しわも消え、スーツはまるで生まれ変わったようだった。

 家へ持ち帰ると、ビニールから取り出して、袖を通してみる。
 鏡に映る自分は以前よりマシだが、まだ胡散臭かった。
以下略



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