過去ログ - 白菊ほたる「かげろう、プロデューサーさん」
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19:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:10.76 ID:cI/SoD+oo
 ほたるちゃんと出会ってから一週間が経った、夜勤明けの朝。
 今日も、留守録が残っている。やっぱり、ほたるちゃんからだった。
 いいかげんにしてくれ、と思う。俺は、君の期待には応えられない。
 全部嘘だったんだ、早いとこ諦めてくれないか。どうだ、ひどい男だろう。

以下略



20:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:36.62 ID:cI/SoD+oo
 携帯電話の鳴る音に気づいて飛び起きたのは多分、ほたるちゃんのことが気にかかっていたからだった。
 もしもし! なんて電話を取ったけれど、この間スーツを預けたクリーニング屋だった。

 肩透かしを食らって、気の抜けた受け答えをしつつ、横目で時計を見るとまだ正午過ぎだった。
 ほたるちゃんが電話をしてくるとしたら、学校が終わってからだろうから、まだ早い。
以下略



21:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:02.08 ID:cI/SoD+oo
 餅は餅屋と言うが、流石はプロだと思った。
 コーヒーの染みも、しわも消え、スーツはまるで生まれ変わったようだった。

 家へ持ち帰ると、ビニールから取り出して、袖を通してみる。
 鏡に映る自分は以前よりマシだが、まだ胡散臭かった。
以下略



22:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:37.13 ID:cI/SoD+oo
 彼女は今も待っているのか? この胡散臭い男を。
 信じさせる気もない、湿気ったマッチみたいな嘘に、胸をときめかせて。
 悪いことをしてしまった。そう思う。

 心が痛むか? だが、今のままで傷つくのはほたるちゃんだけだ。
以下略



23:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:06.84 ID:cI/SoD+oo
「真面目そうな髪型にしてください」

 俺がそう言うと、理容師はちょっと困った顔を見せた。

「短めに切るってことッスかね?」
以下略



24:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:33.80 ID:cI/SoD+oo
 俺は駅へと歩いて行く。
 クリーニング済みのスーツ、さっぱりと短い髪、髭の剃り残しはなく、この夕方に紛れる俺は人の目にどう映るのだろう。
 ほたるちゃんは、どう思うだろう。

 人々を飲んでは吐く駅の前、俺はほたるちゃんを探した。
以下略



25:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:50:30.17 ID:cI/SoD+oo
「君、ちょっと、いいか」

 手を伸ばして、肩を叩く。振り向いたほたるちゃんの表情は、この世の終わりみたいだった。

「僕だよ。……ほら、プロデューサー」
以下略



26:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:51:39.75 ID:cI/SoD+oo
「それより、会えてよかった。話したいことがあるんだ」

「あ、その……私、何度も電話して、お金のことも……あの、二千円だけなら」

 ほたるちゃんはゴソゴソとポケットから封筒を取り出した。
以下略



27:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:52:10.51 ID:cI/SoD+oo
「実は……プロダクションが倒産してしまったんだ」

「ええっ!? と、倒産だなんて……」

 俺が大げさに言うと、ほたるちゃんは同じくらい大げさに驚いた。
以下略



28:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:52:41.53 ID:cI/SoD+oo
「ごめん」

 俺の言葉はあまりに軽すぎる。
 それは軽い嘘をどうにか終わらせるために出た言葉だからだった。

以下略



29:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:53:13.40 ID:cI/SoD+oo
「私が関わると、全部ダメにしちゃって……きっと、プロダクションも私のせいで……」

「いや、そんなことはないよ?」

 もともと、ありもしないプロダクションなんだから。
以下略



30:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:53:46.30 ID:cI/SoD+oo
 いつの間にか、日は随分と傾いていた。
 橙ののっぺりとした空を背に、黒い影があらゆる方向へはじけ飛んだ。
 熱が逃げていくように東の空は青白く、西の空を蝕み始めていた。
 その景色も、たくさんの人も、俺たちだって、一週間前となにも変わりはないのだ。
 それなのに、代わりはない。それが悲しい。
以下略



31:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:54:17.15 ID:cI/SoD+oo
「俺は、ほたるちゃんをアイドルにできなかったけど、ほたるちゃんが望むなら、きっと、アイドルになれるよ」

 ほたるちゃんは、やっと、びしょびしょの顔を上げた。そして、しゃくりあげながら、言った。

「私……嬉しかった、スカウトしてもらえて……こんな私でもアイドルに、なれるかもしれないって……」
以下略



32:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:54:53.19 ID:cI/SoD+oo
「ごめん。もう、行くよ」

「あっ……あの、プロデューサーさんは、これから……どうなるんですか?」

「ああ、倒産したもんな」
以下略



33:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:55:21.34 ID:cI/SoD+oo
「じゃあな」

 ちょっと離れただけで、ほたるちゃんと自分との間には人間の影が隔たった。
 水が易きに流れるように。

以下略



34:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:55:48.73 ID:cI/SoD+oo
 ほたるちゃんのいた方へ振り向いたけれど、人波に飲まれて、ちっぽけな女の子は見えなかった。
 誰が、ちっぽけな彼女を見つけてくれるだろうか。
 誰か、誰かと呼ぶ声がするなら、誰か、誰かと呼びかけよう。

「さようなら、プロデューサーさん……」
以下略



35:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/01(木) 23:56:35.45 ID:cI/SoD+oo
 ――――

 また、同じ一週間。バイトに行って、寝て、何曜日と何曜日が休み。
 いつからかずっと変わらない一週間。あれから、特に変わったことはない。
 強いて言えば短くなった髪をアルバイト仲間に茶化されるくらいで、店内に流れるアイドルソングもしばらくは繰り返されるはずだった。
以下略



36:名無しNIPPER[sage]
2015/10/02(金) 00:08:39.67 ID:+Bphyu160
デビューを祈る


37:名無しNIPPER[sage]
2015/10/02(金) 00:23:45.38 ID:C4m4nO1O0
こういう掌編好きだ
ほたるちゃんはもっと好きだ
声つかないかなー
せめてデレステ出ねーかなー


38:名無しNIPPER
2015/10/02(金) 00:24:09.97 ID:whdpPmL30
素敵


39:名無しNIPPER[sage]
2015/10/03(土) 00:37:37.43 ID:UpSsJJ0YO
こういうのいいな



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