過去ログ - 白菊ほたる「かげろう、プロデューサーさん」
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名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:44:20.74 ID:cI/SoD+oo
「二万円かー」
結局、最適解は見つからないまま、朝食を食べ終わる。今日は何時間働くんだっけ。
隅に脱ぎ捨てたままのスーツが目について、拾い上げる。
以下略
16
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:44:52.05 ID:cI/SoD+oo
――――
一週間という一括りはいつからか空っぽのハリボテになっていた。
バイトに行って、寝て、何曜日と何曜日が休み。
待っているものはなく、ただ老いと死まで続く一本道を無感動に歩いているだけ。
以下略
17
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:45:22.95 ID:cI/SoD+oo
この一週間、バイトが終わってから携帯電話を見ると、いつも留守録が残っていた。
ほたるちゃんからだった。
『――お願いします……連絡、待ってますから……私、本当に、アイドルやってみたいんです……』
以下略
18
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:45:52.70 ID:cI/SoD+oo
『――お金、きっと用意します……私のお小遣いじゃ、全然足りないですけど……。
今、二千円だけあるので……全部用意できるまで、どうか待っていてもらえませんか……』
自分がほたるちゃんと同じ歳の頃、二千円はどれだけ大金だったろう。
必死に思い出してみて、それから二万円という金額の大きさに涙が滲んだ。
19
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:10.76 ID:cI/SoD+oo
ほたるちゃんと出会ってから一週間が経った、夜勤明けの朝。
今日も、留守録が残っている。やっぱり、ほたるちゃんからだった。
いいかげんにしてくれ、と思う。俺は、君の期待には応えられない。
全部嘘だったんだ、早いとこ諦めてくれないか。どうだ、ひどい男だろう。
以下略
20
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:47:36.62 ID:cI/SoD+oo
携帯電話の鳴る音に気づいて飛び起きたのは多分、ほたるちゃんのことが気にかかっていたからだった。
もしもし! なんて電話を取ったけれど、この間スーツを預けたクリーニング屋だった。
肩透かしを食らって、気の抜けた受け答えをしつつ、横目で時計を見るとまだ正午過ぎだった。
ほたるちゃんが電話をしてくるとしたら、学校が終わってからだろうから、まだ早い。
以下略
21
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:02.08 ID:cI/SoD+oo
餅は餅屋と言うが、流石はプロだと思った。
コーヒーの染みも、しわも消え、スーツはまるで生まれ変わったようだった。
家へ持ち帰ると、ビニールから取り出して、袖を通してみる。
鏡に映る自分は以前よりマシだが、まだ胡散臭かった。
以下略
22
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:48:37.13 ID:cI/SoD+oo
彼女は今も待っているのか? この胡散臭い男を。
信じさせる気もない、湿気ったマッチみたいな嘘に、胸をときめかせて。
悪いことをしてしまった。そう思う。
心が痛むか? だが、今のままで傷つくのはほたるちゃんだけだ。
以下略
23
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:06.84 ID:cI/SoD+oo
「真面目そうな髪型にしてください」
俺がそう言うと、理容師はちょっと困った顔を見せた。
「短めに切るってことッスかね?」
以下略
24
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:49:33.80 ID:cI/SoD+oo
俺は駅へと歩いて行く。
クリーニング済みのスーツ、さっぱりと短い髪、髭の剃り残しはなく、この夕方に紛れる俺は人の目にどう映るのだろう。
ほたるちゃんは、どう思うだろう。
人々を飲んでは吐く駅の前、俺はほたるちゃんを探した。
以下略
25
:
名無しNIPPER
[saga sage]
2015/10/01(木) 23:50:30.17 ID:cI/SoD+oo
「君、ちょっと、いいか」
手を伸ばして、肩を叩く。振り向いたほたるちゃんの表情は、この世の終わりみたいだった。
「僕だよ。……ほら、プロデューサー」
以下略
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