過去ログ - 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2―
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◆P2J2qxwRPm2A
[saga]
2016/02/25(木) 23:18:16.10 ID:/mUgx/Fs0
◇◆◇◆◇
ギュンター自身、それが終わりのまどろみであることには気づいていた。
ぼんやりと槍を構える体は、もはや自身の意思ではどうにもならないことにも気づいていた。体に巻きついた憎悪の感情は、確かにギュンターの持っていたもので、ハイドラはそれを目覚めさせたのだから。
だからこそ、殺してはならない人々が生まれた。そして、それを傷つけた時に動揺したことでギュンターは察していた。すでに復讐に身を窶すことなど出来ないほどに、その身に怒りなど宿っていなかったのだと。
槍を掲げると周りに集まっていた透魔兵たちが武器を構え始める。それは選ばなかった先にあったかもしれない光景だった。
『ギュンターよ、先の戦い見事であった』
頭の中に忌々しい光景が浮かぶ。暗夜王国の玉座に座る男に武勲を認められた。それは騎士として暗夜に仕えてきた者たちが憧れる光景である。王国を支配する権力者から活躍を評価してもらえることは騎士の誉れであり、ギュンターもその一人であった。
『ギュンターよ。お前の力、そしてそのあり方にわしと同じものを感じている。そこでだ、お前にも我が一族に加わることを許そう。この血を飲むがいい』
それは王直々にギュンターを認めるという意思の表れであった。一族に加わること、それを容認するなら血を飲み、竜の血を得よというものだった。
それをギュンターは拒んだ。拒んだのは、一族になることよりも彼にとって大切な物があったからだ……。それは彼の妻子だった。
カムイの進撃に合わせて、ギュンターの指示通りに透魔兵の一団が動き始める。それを牽制するように二騎がカムイの前に現れる。
「カムイ様、前衛は私が引きつけます」
「お願いしますね、リリスさん」
「はい、サイラスさん、お願いできますか」
リリスはサイラスの背中に問い掛ける。共に闘うパートナーとして、同時に夫婦としての二人の形があった。
「ああ、任せてくれ。俺はリリスを乗せて迎撃に回る、ゾフィーも付いてこれるか?」
「もちろん。サイラスさんとリリスさんは乗馬でも楽しむ気分で、戦ってくれても構わないよ〜」
そして寄り添うようにゾフィーが二人に話しかける。まるで家族のように話し合い、そして互いが互いの絆を信じていることに体の憎悪は膨らんでいく。膨らんでいくのに、心にあるのはとてつもないほどに穏やかな気持ちで、静かに思い出せるのはある日にした他愛もない話だった。
『結婚ですか?』
『あまり、この城塞にいる者たちでそのような話は聞かないのでな』
本当に平和な昼下がりだった。リリスが厩舎の整理を終えて戻ってきた時にポロッとギュンターが零した質問で、それを聞いたリリスは少しだけ考えに耽ると、すぐに苦笑いを零した。
『考えたこともありませんし、結婚するつもりもないですよ。ずっと、カムイ様のために仕事をしていきたいって思ったからここに来たんですから、誰かに恋をするなんてありえないことです』
『そうか、だがいずれお前にも大切な者が出来るかもしれんからな、少しは考えておくといいだろう』
『ギュンターさん、思ったよりもロマンチストなんですね。もっと寡黙な人かと思っていましたけど』
リリスはそう言いながら、いろいろと考えるように首をかしげ、そしてやはりアンニュイな顔を再び張り付けて溜息を漏らした。
『やっぱり、私が結婚して誰かと一緒に幸せに暮らしている姿は想像できません。私、ロマンスとか全くわかりませんから』
『そうか。だが、私の見立てではお前は花も恥じらうような乙女のように思えなくもない。カムイ様はあれでどちらかと言えば、男と言える部分が強いのでな』
『……ギュンターさんは冗談がうまいんですね』
そう言って苦笑いしていた彼女であったが、今視線の先にいる彼女は確かに乙女のように顔を赤らめたり、愛する者と共にあり幸せそうに笑みを浮かべていた。。
(ふっ、あんなに結婚など考えてもいなかったお前が、愛する者に囲まれて幸せそうに笑う日がくるとはな……)
そこで知ったのだ。もう、体と心は離れてしまっているということ、この体が開かれた悪意に取り込まれてしまったという事実を、ギュンターは人知れずに理解した。
だから、次に見えた光景さえも、彼は受け止めることができてしまう。自宅で愛する妻子が凶刃に倒れている姿、そして切り捨てた正規兵たちの死様。変わることのないギュンターの暗い過去が静かに清算されていく。
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