2:名無しNIPPER[saga]
2015/10/13(火) 03:09:07.08 ID:BpcSycVC0
この間ものの5秒。
上着を、という申し出にアッハイと応えると、ごく自然に一枚剥かれてしまう。
この間なんと9秒。
皆さん八幡は9秒で見ず知らずの人間に脱がされる男です。やだ八幡さんのエッチー!
――そんな俺の馬鹿な現実逃避は知る由もなく、再び慎み深く頭を下げたボーイは、ではこちらへと、自信に溢れた足取りで予約席まで案内を開始する。
俺はなるべくキョロキョロせぬよう心掛けつつ、トコトコとアヒルの子のようにその後を付いていった。
ラウンジに足を踏み入れると、ジャズピアノ(たぶん)の生演奏(おそらく)と英語(きっと)のもの悲しい女性ボーカルに包み込まれる。
辺りは一層暗く、足元を照らす間接照明が道しるべ代わりだった。すれ違うスタッフは皆落ち着いた笑みで俺に会釈し、来店を歓迎した素振りをみせた。
くそ、やっぱりこういう場所だと男も女も整った顔立ちで揃えてるもんだな。街中なら、劣等感で溝蓋の上まで道を譲ること請け合いだ。
そんなイケメンが仕事ともなれば、俺なんかに頭下げなくちゃいけないなんて……
やっぱり労働ってクソだなと再認識しつつ、今まさに仕事でこんなところまで来ている自分の運命を呪った。労働ってlose-loseよね。
そこそこ埋まっているテーブル席を横目に、足を進めながら、最後の思考の堂々巡りを開始する。
といっても、仕事を振られた時点である程度覚悟はしていた。
いや、覚悟なんて格好のいい真似は今までしたことないな。俺にあるのはいつも諦念だ。
どうあっても今夜、あの男に会わなければならない。
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