798:名無しNIPPER[saga]
2016/03/02(水) 00:51:28.76 ID:UrspAWm1o
「……熱はなさそうだけど」
「……た、タクミくんの手が熱いのでは?」
「否定はできないけど」
るーは、バレバレの嘘を叱られると思ったのか、俺と目が合わないように視線を泳がせている。
ちょっと緊張した素振りが、なんとなく新鮮だ。
「……まあ、本人が体調悪いって言ってんだから仕方ないよな」
それに、遅刻の理由は俺だ。たぶん。そう言っていいのか、いまいちわからないけど。
なんだか、俺のせいで遅刻したって思うのは、内心だけでも、なんとなく傲慢な気がする。
思い上がっているという気がする。
「と、とにかく!」
と、るーは頭を揺すって俺の手を振り払って、怒ったみたいに顔をそむけた。気安く触れられたのが気に入らなかったのかもしれない。
「保健室! です!」
「……あ、うん」
まったくもう、とどこか困った調子でつぶやきながら、るーは俺の少し前を歩く。
こんなに元気な病人がいるもんか。俺は少し溜め息をついて、それから内心で感謝した。
言葉にしたら無碍にしてしまう気がして、言わなかった。
「俺もさ」
声を掛けると、「なんですか?」とるーが振り返る。
「るーのそういうところ、すごいと思うよ。ホントに」
彼女は一瞬、怯んだように口を「むっ」と結んでから、慌てたみたいに前に向き直る。
「なんですか、そういうところって!」と不満気に呟く彼女の困った声がおもしろくて、俺は少しだけ笑ってしまった。
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