過去ログ - やすな「やらないとこっちから噛むぞおおおお」
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6:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:37:27.13 ID:T0P1NCyF0
私は再びやすなに肩を貸し、ビルの中へと足を踏み入れる。
すぐに逃げられる様に、侵入口でもある裏口の鍵は掛けないでおく。外から侵入するには扉を引く必要がある。もし奴等に扉を引くといった知能が備わっていたとしたら、もはや鍵を掛けようが掛けまいがおしまいだ。
とにかくやすなを休ませたかった。無理をしてまでも浮かべる笑顔を、これ以上見ていられる自信がない。

休める部屋を探しながら、私達は慎重に進んでいった。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:38:25.07 ID:T0P1NCyF0
何してんだ、私。奴等に聞かれたらどうする。

普段では有り得なかったミスに、想像以上に焦っている事を痛感させられる。私自身隅々まで気を張り巡らせているつもりが、どうにも感覚が鈍い。

そんなのだから、やつらにやすなが。
以下略



8:名無しNIPPER[sage]
2015/12/01(火) 18:38:31.42 ID:vKfchS9wo
素晴らしい期待


9:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:38:52.56 ID:T0P1NCyF0
「くそっ!!」

こんなことしても、何も変わらないのは私が一番分かっているはずなのに。非合理的な行動は、目的の達成を邪魔するだけ。
合理的な理想と非合理的な感情が、私の中でねじれ、分かれては、絡み合う。
ぎりぎりとこめかみを膨らませながら振り向くと、少しだけ扉が開いて、やすなが重たげな顔だけ覗かせた。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:39:27.99 ID:T0P1NCyF0
またしても様々蹴飛ばしそうになる衝動を堪えながら物々の山を目でなぞっていると、銀の棚々の隙間に不似合いな木目が見えた。
なんとか隙間から手を伸ばし引き抜くと、その木目は取っての付いた箱であり、金具の付いた前面には赤い十字が描かれていた。

「それって」

以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:40:00.35 ID:T0P1NCyF0
「少し、しみるぞ」

私は消毒液のスプレーヘッドもろとも外し、液体としてやすなの傷口に振り掛けていく。

「……っ」
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:40:33.28 ID:T0P1NCyF0
「ごめんね。迷惑掛けちゃって」
「……そうだな」

普段と変わらないやすなの声。ある種の鬱陶しさを含んだ黄色い声。
この薄暗い部屋にはひどく場違いで、くすんだ白い壁紙に吸収されることなく、部屋を転々と反響しているように聞こえた。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:41:14.50 ID:T0P1NCyF0
「今更だな。お前と居ると散々な目に遭うのはいつものことだ」

私はやすなの視線を受け止めることが出来ず、顔を逸らした。
それでも錆び付く喉を必死にこじ開けて、言葉を続けた。

以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:41:43.71 ID:T0P1NCyF0
そんなことない、気のせいだ。普段の台詞が出て来ない。ソーニャちゃんとしての言葉が、出て来なかった。
やすながそっと私の手を握った。

「楽しかったよ。ソーニャちゃんと一緒に居られて本当に楽しかった」
「口を開くな。喋ると無駄に」
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:42:25.29 ID:T0P1NCyF0
胸がはち切れそうになった私は、やすなに顔も向けもせずに叫んだ。
やすなのとは違って、私の声は壁の汚れや煤けに溶けていく。
まるで水中から太陽を羨む様に、私の声は沈んでいった。

「やっぱりずるいよね。私だけなんて」
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2015/12/01(火) 18:43:19.80 ID:T0P1NCyF0
それから数分。いや、数十分かもしれない。
短くも永い間、私達は座っていた。
私達はただ居るだけ。どちらともなく私達は手を握り続けて、お互いの体温を感じていた。

そこにあるのは他愛もない普段と変わらぬ会話。
以下略



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