649: ◆pOKsi7gf8c[saga]
2016/12/18(日) 10:55:01.27 ID:543n5fYR0
つい数日前まで普通に聞いていたその声に、胸が一杯になる
遂に自分はやり遂げた
忘れていた達成感が全身に満ち溢れ、充足感が脳を支配する
『でも、どうしてこんな無茶までして、あなたは……』
しかし、そんな自分を現実に引き戻すように、彼女は問いかける
なぜ、こんな無茶を押してまで自分を助けに来たのか
どうして、わざわざ危険に身を晒すような行為に至ったのか
兵器として使われてきた彼女にとっては、それが理解できない行為なのかもしれない
「俺たちが……いや」
「俺は君を助けたかった」
「ただ、それだけさ」
言葉を詰まらせている彼女へ、自分の真っ直ぐな想いを伝える
もちろん、自分たちの力で深海棲艦を倒したいという思いもあった
だが、それ以上に『この手で彼女を助けたい』と心の底から願ったのだ
きっと他の船員たちもそう思ったに違いないと、眠り続けている艦橋を見渡しながら勝手に納得していると、
『えっ、と……』
無線から彼女は恥ずかしげに戸惑う声が聞こえてくる
その声に冷静に自分のかけたセリフを思い返し、急に小っ恥ずかしくなる
これでは軟派な口説き文句に間違われても仕方ないではないか
「い、いや……これはそういう意味では」
堪らずに訂正すると、彼女も『分かっています』と抑え気味に返してくる
だが、一度火のついた羞恥心はそうそう消えるものではない
熱を帯びた頬を冷やそうと、顔を上げて窓の外へと意識を飛ばす
空の藍色は薄れて薄紫色へと変化し、海は朝焼けのオレンジ色に染まってる
割れ窓からそよぐ風は磯の香りを纏って鼻孔をくすぐる
(朝か……)
新たな一日が今、始まろうとしていた
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