過去ログ - 真姫「歩き方を教えて」
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3: ◆tXSQ21DKYs
2015/12/11(金) 01:59:48.97 ID:wxXgwuIMo
「はえー……。やっぱり真姫ちゃんは大人だねぇ」

「……そうかしら?」

 大人が、突発的な衝動に駆られて家を飛び出したりするだろうか。

 いいや、しない。

 どれだけ歳を重ねても私はまだまだ子供で、それを受け入れてくれる穂乃果のほうがよっぽど大人だ。

 そういえば。

「事情、聞かないのね」

「ん? 聞いてほしい?」

「……どうかしら」

 やはり、大人だ。

 正直なところ、迷っているのだ。事情を説明すれば、穂乃果は手を貸してくれるだろう。今こうして、家に上げてくれたように。

 だが、それでいいのだろうか。穂乃果は着実に前へと進んでいる。自分の足で、自分の意思で。

 助けてと叫ぶのは簡単だ。それが難しいことではないと知っているから。手を伸ばせば、穂乃果が掴んで引っ張ってくれることだろう。

 西木野真姫として、それは許容していいことだろうか。

「何があったのかはわからないけど、気の済むまでここに居ていいよ。私も、一人より二人の方がいいし」

 ちょっと狭いけどね、と穂乃果が笑う。若干温くなったミルク入りコーヒーを一息に呷り、カップを持って立ち上がる。

「おかわり、いる?」

「……いや、いいわ。もう、夜も遅いし」

 時計を見ればそろそろ日付が変わる頃。コーヒーのせいか眠たくはない。

 こちらも温くなったコーヒーを飲み干し、キッチンへと足を向ける穂乃果に続く。

「明日の朝、大丈夫なの?」

 流しでマグカップを洗浄する穂乃果に問いかける。慣れた手つき。数分もかからないだろう。

「バイトはお休みだから大丈夫。真姫ちゃんは……夏休みだったね」

「ええ。それじゃあ、特に早起きする必要はないのね」

 早起きするのは苦手、というわけではないが、夏休みでだらけきった身体にとって辛いことは確か。ゆっくりできるのなら、そうしたい。

「お風呂は入った?」

「ええ、家で済ませたわ」

「そっか……。私まだだから、先に寝ててもいいよ?」

「そう? じゃあ、毛布か何か貸してもらえるかしら」

「……うち、布団一つしかないんだよね。毛布とかもなくって」

 そこで穂乃果が悪戯気に笑みを浮かべる。もうわかった。次になんというのか、もうわかってしまった。

 そして、それに逆らえないことも知っている。やはり穂乃果は、大人だ。子供の扱い方を心得ている。

「一緒に寝ようか、真姫ちゃん」

「……ま、そうなるわよね」


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