過去ログ - 強くてニューゲーム-成瀬順の場合-
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22:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:26:52.01 ID:DBdQeb/6O
他に誰もいない屋上。2人きりの実行委員会。
その時間は、冬の訪れを予感させる冷たい風に煽られつつもゆっくりと進んでいく。
「はい、坂上君」
そう言って口元に綺麗な曲線を作って成瀬は笑うと、拓実の分の弁当を差し出してくる。
23:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:27:58.34 ID:DBdQeb/6O
こうして自分達がふれ交の委員会議と称して昼食を共にする様になったのはつい最近の事。
加えて言えば弁当を作ってきてもらう様になったのなんて、なおさら最近の事だ。
きっかけはなんだったろう。確か昼食にパンばかり食べてたのを心配されて、お弁当作ってあげようか?なんて言って…
そしてその通りに毎日律儀に作ってきてくれるんだから、まぁ相当な世話好きなんだと思う。たぶん良い意味で。
24:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:32:33.04 ID:DBdQeb/6O
「歌詞はこれでいきたいんだけど…どうかな?」
どうやら手書きらしい歌詞カードを取り出すとおずおずと差し出してくる。
ミュージカルをやりたい、と言い出したのは成瀬の方だ。
「ああ、いいと思うよ。」
25:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:34:12.49 ID:DBdQeb/6O
たぶん拓実はこの時間が好きだった。
屋上で2人、少し内気な女の子が自分にだけ見せる表情で、駄弁って、笑いあって、
そんな時間がたまらなく幸せで、特別な事だったのだ。
そう、特別だったのだ。
26:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:34:58.84 ID:DBdQeb/6O
27:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 21:44:25.27 ID:DBdQeb/6O
リハーサルを終え、クラスメイトは皆、体育館で明日の準備をしている。
明日の本番が終わればまたいつもの日常に戻る。
そんな少しの寂しさと興奮交じりの熱気が同居する空間が心地よかった。
28:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:05:08.79 ID:DBdQeb/6O
「少し低い声が好き」
「優しい所が好き」
「ピアノを弾いてる姿が好き。」
「中学の時、付き合ってた事…私、別れたつもりないからっ。」
一つ言葉を紡ぐごとに彼女の目が伏せられていく。
29:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:06:31.65 ID:DBdQeb/6O
「…なんてね」
ふいに顔を上げた彼女が口元を少し歪ませて笑顔を作る。
30:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:08:38.46 ID:DBdQeb/6O
「ありがとう。でも俺、好きな人がいるんだ。気持ちを伝えない内は…」
ガタンという音と少しの振動が扉の外から聞こえる。ふと見てみると成瀬が走り去っていくのが見える。
「なんとなく…坂上君はそんな風な事を言うと思ってたよ。」
泣き笑いの様な表情で仁藤が言う。
31:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:09:48.24 ID:DBdQeb/6O
誰もいない屋上、いつもの場所に今は2人きりだ。
「仁藤さんはどうしたの!?」
子供の様に泣き噦る成瀬が、叫ぶ様に問いかけてくる。
どうして成瀬が泣くのだ。
まるで彼女が振られたみたいだ。
32:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:10:42.99 ID:DBdQeb/6O
「違うの。坂上君は仁藤さんを好きじゃないとダメなの、実行委員は4人じゃないとダメなの。」
呟くように成瀬が言う。
ここにきて成瀬の思考回路がまったく理解出来ない。
いや、理解する事に意味がないのだ。
まるでピースの欠けたパズルを完成させようとしている様な、そんな徒労感を感じる。
33:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:12:12.44 ID:DBdQeb/6O
「…やり直しているの。ふれ交までの日々を、私自身を。」
ある日目が覚めたら1年生の秋だった。と彼女は言う。
「ワクワクしてた。もしかしたら、上手くやれるかも、私さえ上手くやれば色んな事が変わるかもって。」
34:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:14:00.66 ID:DBdQeb/6O
ふいに冬の風が吹く。
彼女の少し長い髪が風に靡き、スカートが風にはためくと白い肌が露わになる。
そんな彼女の姿を見ると、何故だか山の上のお城の事が思い浮かぶ。
去年、廃墟になったホテル。
35:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:15:45.31 ID:DBdQeb/6O
「最初は良かったの。喋れる様になって、それまでみっともないと言って
私を外に出したがらなかったお母さんは
昔みたいに笑って卵焼きを作ってくれる様になった。でも…」
36:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:19:17.74 ID:DBdQeb/6O
不思議な程にあっさりと、成瀬の話を受け入れている自分に驚く。
きっと成瀬は壊れたフリをしていたのだろう。
壊れて、全てを受け入れたフリをして
そうしてこの世界で生きてきたのだ。
37:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:21:30.51 ID:DBdQeb/6O
「っ坂上君、坂上君…」
そう言って成瀬は目を伏せて、拓実の胸に身を預けた。
縋りつく様に絞り出したその声は、"坂上拓実"こそが成瀬順の唯一の支えである事を容易に確信させる。
それならばそれでいいと感じる。
38:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:23:24.23 ID:DBdQeb/6O
「成瀬…」
未だ自分の胸に身を委ねる成瀬を抱きしめる。
想像してた通りの柔らかさと、ふとした瞬間どこかへ去ってしまいそうな華奢さがある。
トクン、と懐で刻まれる鼓動が離れてしまうのが怖くて、拓実は彼女を強く抱きしめる。
39:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:24:14.98 ID:DBdQeb/6O
成瀬との恋はきっと自分が今まで望んでいた様なありふれた モノじゃなくて、
むしろ傍で耳をそばだてれば、どろり、と音が聞こえてきそうな仄暗い恋だけれど。
そんな退廃的で、2人で堕ちていくような恋だけれど、
それでも成瀬が自分を共に堕ちる相手として望んでくれるのであれば、
40:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:25:00.89 ID:DBdQeb/6O
それでこの不幸面した少女が少しでも笑ってくれるなら、とそう思うのだ。
41:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:28:19.06 ID:DBdQeb/6O
という話でした。
結局完結までで40レスのショートショートストーリーでした。
ピクシブやブログで趣味で書いてる程度のやつの文章なので、
何か気になる点があればよろしくお願いします。
42:名無しNIPPER[saga]
2015/12/20(日) 22:42:42.10 ID:DBdQeb/6O
では、ありがとうございました。
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