過去ログ - 東兎角「羆(ひぐま)のリドル」
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200: ◆H0XvovGbeD/X[saga]
2015/12/21(月) 00:07:14.48 ID:F1W2cbHo0
羆「ク゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ゥ……!」

兎角「晴、下がっていろ…」

晴「兎角…もういいよ…!」

晴「だって、兎角とこの子は戦う必要なんて──」

兎角「さぁ、くるならこいっ!!」



晴の言葉を遮るように叫んでいた。その先を聞く勇気がなかったからだ。やはり私は真実を恐れていたようだ。

揺るぎようのない真実を知ってしまえば、さっきの晴に対する決意すら脆く崩れていってしまいそうだった。

鳰の話がもし本当ならば、いっそこの場でコイツに喰い殺された方がマシかもしれない…そんな考えすら頭をよぎる。

だが、羆の圧倒的な威圧感を前にして、私はそれがどれだけ甘えた考えだったか思い知らされた。

全身から冷や汗がどっと噴き出していた。ほとんど死にかけの相手なのに、勝てる気はまったくしなかった。

ナイフを手に睨みつけてはいても、内心生きた心地がせず、世界には私とコイツしか存在していないかのように錯覚する。

いったい自分はどちらを望んでいるというのか。コイツに喰われたいのか、喰われたくないのか。

いや、私の生きたい・死にたいの意志なんて、大自然の偉大さを体現したようなコイツの前では何の意味も持たないのかもしれない……

どれくらいの間そうしていたのだろう。森の中から足を引きずった子熊が現れて、奴の体を舐め始めた。

それでようやく私は、目の前の羆がいつの間にか息絶えていることに気付かされたのだった。

子熊の前脚に、見覚えのある少女趣味なハンカチが巻かれていた。瞬間私は、愚かな希望にすがりそうになる。

コイツが黒組を襲った理由が晴にあったとして、それはプライマーフェロモンなる力のせいではなく

晴の心の優しさに触れた為ではないのだろうかと。羆は我が子を助けた晴に感謝し、彼女を脅かす存在と戦ったのではないのかと。

自分でも呆れるくらい幼稚で無理のある感傷だったが、その時私は滑稽な程にそうであって欲しいと願っていた。

それでも私は生き残ってしまった。きっと、そう遠くないうちに否応なしに真実を突きつけられることになるのだろう。

そうなった時、決して背を向けず、立ち向かう勇気が欲しかった。晴のような。この羆のような……

やがて、鳰の死体から転がったタブレットが自動で起動した。画面には理事長と呼ばれていた女が映し出されている。


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