過去ログ - 四条貴音「おのまとぺをご一緒に」
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3: ◆8HmEy52dzA[sage saga]
2015/12/18(金) 19:01:23.17 ID:cSL4roIE0
01.
霧雨が好きでした。
あいどるの仕事を終え、てれび局の前での雨宿りの夜のことです。
『がやがや』と騒がしい喧騒の中、傘を持った人々が『ぞろぞろ』横を通り過ぎていきます。
それらを横目にひとり『ぽつん』と立つ中、『さらさら』降る霧雨が私の身体を撫でながら通り過ぎ、『しっとり』と濡らしていく。
垂直に近い角度で降る雨とは違い、『びゅうびゅう』と吹く風の影響を受けやすい霧雨は、縦横無尽にその軌道を変えて傘での遮断を許さない。
全方向から身を包むように降りしきり『じわじわ』と全身をしとどに濡らす霧雨は、どこか温かみがあり、濡れてもどこか嬉しい気持ちで満たされるようで好きなのです。
「ああ」
しかしそれは次第に『ぽつぽつ』へ、更には『ざあざあ』と、勢いを増していきます。
感傷に浸る間もなく、霧雨は土砂降りへと姿を変えてしまいました。
「……世の中に、人の来るこそうれしけれ」
雨は好きですが、さすがに雨の中に立ち『びしょびしょ』になるのは気が引けます。
「とはいうものの、貴方ではありませんよ」
雨を相手に皮肉を込めて語りかけたところで、当然止むことはなく。
傘もありませんし、どうしたものでしょうか。
と、
「お待たせ、貴音」
『すっ』と視界が遮られたかと思うと、傘が差し出される。
「あなた様」
待ち人がやってきました。
よほど急いで来たのでしょう、足元は跳ねた水で『ひたひた』濡れ、隠そうとはしていますが息遣いも『ぜえぜえ』と荒く、額には汗が『じわり』とにじんでいました。
「ごめんごめん、道が混んでてさ」
「いえ。お気になさらず」
「そっか、じゃあ行こうか。車、回してくるよ」
仕事とはいえ、わたくしの為に東奔西走してくれるその姿を見ると、不謹慎ながらもうれしくて。
うつむいて『にやにや』と頬が緩むだらしのない顔を隠します。
走り出す彼の後姿を見送りながら、照れ隠しの意味も込め、『ぱしゃん』とぶうつで水たまりを蹴りとばすのでした。
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