7:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:50:59.64 ID:0Zh7X+jI0
  
  あぁ、外はもう冬だなぁ。 
  あったかいココアと、チョコレートのドーナツが美味しい季節だなぁ。 
  
  窓から見えるプラタナスの木はすっかり裸になっちゃった。 
8:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:51:29.46 ID:0Zh7X+jI0
  
  がちゃり、と静かにドアノブが回って、帰ってきたのはゆかりちゃんだった。 
  
 「ただいま戻りました。あら、法子ちゃん一人ですか?」 
  
9:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:52:39.86 ID:0Zh7X+jI0
  
 「プロデューサーさんと、相変わらず仲が良いんですね」 
  
 「ずっと一緒だもん〜。ゆかりちゃんこそ、そっちのプロデューサーと仲良しなんでしょ?」 
  
10:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:53:21.68 ID:0Zh7X+jI0
  
  木枯らしが窓を少し叩いた。葉っぱが舞っているのも見える。 
  
  事務所のストーブ、そういえば点けてなかった。 
  
11:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:53:58.11 ID:0Zh7X+jI0
  
 「そういえばさ、なんであたしが良いことあったってわかったの?」 
  
 「ふふっ。法子ちゃん、またぱたぱたしてたので。良いことがあったときの癖、なんですよね?」 
  
12:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:54:52.39 ID:0Zh7X+jI0
  
  二人分のお皿とココアをそれぞれテーブルに置いた。柔らかなソファーに体を埋めて、さぁドーナツを食べよう。 
  
  だれかと一緒に食べるドーナツはいつもより美味しいのだ。当社比三倍。 
   
13:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:55:33.17 ID:0Zh7X+jI0
  
  あたしにはよくわからなかった。 
  
  あたしがいつだって楽しいのはドーナツのおかげで、それに、一緒にいるみんなのおかげなのに。 
  
14:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:56:19.05 ID:0Zh7X+jI0
  
  ゆかりちゃんはこのあと程なくして帰ってしまって、また事務所に一人になった。 
  
  あの言葉は、ドーナツを食べたあとに紙袋に溜まった、黄色いチョコレートの粒みたいにあたしの中に残っている。 
  
15:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:56:56.16 ID:0Zh7X+jI0
  
  くたびれたカーキ色のコートをプロデューサーから剥ぎ取るようにして受けとって、ハンガーに掛けようとする。 
  
  もう、ドーナツの匂いはしないなぁ。 
  フレンチクルーラーみたいな色のコートからは、もうプロデューサーのにおいしかしなかった。 
16:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:57:32.29 ID:0Zh7X+jI0
  
  プロデューサーは自分のデスクに腰を下した。ギシ、と軋む音がする。 
  
  あたしはまたキッチンに向かって、今度はインスタントコーヒーの蓋を開けた。 
  
17:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:58:03.09 ID:0Zh7X+jI0
  
  自分の分のコーヒーも淹れて、プロデューサーのデスクで並んでドーナツを食べる。 
  
  備え付けの大人用の椅子はあたしには少しだけ大きくて、つま先がぺたぺたと事務所の床を叩いた。 
  
18:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 19:58:57.17 ID:0Zh7X+jI0
  
 「法子は、ドーナツのおかげでアイドルを始めたんだよな」 
  
  そうだよ。ドーナツのおいしさを広めるために、あたしはアイドルになったんだ。 
  
19:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:00:19.73 ID:0Zh7X+jI0
  
  プロデューサー、違うんだよ。 
  
  確かにあたしがアイドルを始めたのはドーナツのためだけど、でも今は、それだけじゃないんだよ。 
  一緒にアイドルするのが楽しくて、仕事終わり一緒に食べるドーナツが一番おいしいんだって思ったから。 
20:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:00:59.06 ID:0Zh7X+jI0
  
 「プロデューサーになったのに、最初は全然上手くいかなくってな。でも法子がアイドルになってから、いつもプロデューサーになって良かったって感じるよ」 
  
 「いつも?」 
  
21:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:01:31.34 ID:0Zh7X+jI0
  
 「あのね、プロデューサー」 
  
  そう言ってあたしは席を立った。プロデューサーはちょうど、ドーナツを食べようとしてるところだった。 
  
22:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:02:17.33 ID:0Zh7X+jI0
  
  視線が、あたしとドーナツに小さくついた歯型の間をなんども行き交う。 
  あたしの顔も、きっとストロベリードーナツみたいな色なんだろうな。 
   
  もぐもぐとドーナツを飲み込んで、逃げ出すみたいに事務所を出た。 
23:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:02:56.77 ID:0Zh7X+jI0
  
  
  
  口の中には、甘いハニーグレーズの味がずっと残っている。 
  
24:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:03:46.86 ID:0Zh7X+jI0
  
 お わ り 
25:名無しNIPPER
2015/12/18(金) 20:04:40.98 ID:5uNB4q0t0
 こういうのすごく好き 
26:名無しNIPPER[saga]
2015/12/18(金) 20:06:10.32 ID:0Zh7X+jI0
  
 今回の元ネタはASIAN KUNG-FU GENERATIONの「踵で愛を打ち鳴らせ」でした→ https://youtu.be/CsCwl6rDOgU 
  
 最近書いたの→「橘ありすと冬の旅行について」 ( https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448641702/ ) 
                 
27:名無しNIPPER[sage]
2015/12/18(金) 20:18:15.91 ID:yrIsAdYpO
 1番好きなアーティストの1番好きな曲がssで使われててなんか嬉しかった 
 乙 
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