過去ログ - 【悪魔のリドル】春紀「あれから」
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75: ◆UwPavr4O3k[saga]
2016/07/17(日) 22:13:03.61 ID:FvhlkTxl0



 鳰「……あ、え」

 
ボタボタと、いつの間にか自分の頬を濡らす涙の粒に気付いたのは、自分の頬に飛び散った返り血が手元に流れ落ちて来た時だった。

地面を這いずり、血痕を残しながらも鳰の元に辿り着いた春紀は、自分の眼帯を外す。

其処には、細菌で充血し、壊死しかけている赤黒いグロテスクな瞳がある。

それでも、春紀は両目で鳰を見る為に眼帯を取り払う。


ぎゅうっ、と。


辛くなった時に、冬香がしてくれた事を、鳰にも。


 春紀「片目が見えなくなっても、ナイフを刺されても、アタシは、大丈夫だ。……走り、お前はきっとやり直せる。誰かを殺して、何かを成し遂げる事なんてもう終わりだ」

 鳰「……っ。」

 春紀「だ、から。……な、もう、止めよう。自分に、嘘をついて、意地張って、生きるの。」


元々、捨てられた人間になるはずだった。

それでも、此処まで生きてこられたのは理事長のおかげだ。

今回も、それからも、彼女の為に生きたいと思い続けた。


だからこそ、ずっとずっと東兎角について考え続ける理事長の姿がたまらなく辛かった。

嫉妬心は暴走し、元々気に食わなかったあってか、東兎角をこの手で潰す姿を彼女に見せられれば良いと。それだけを考えた。

けれども、結果は寧ろ最悪だ。何せ、一般人上がりのど素人と相討っただけだ。

東との争いに敗北する。その結果は、きっと理事長を呆れさせ、そしていつか自分は用済みになってしまう。


そんな恐怖と思い込みと嫉妬心と…………全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って出来上がった"ハシリニオ"は、耐えきれなくなって作り上げたただの偶像。

偶像こそが本物。走り鳰は、この一か月間を過ごしてきて、寒河江春紀という女性に憎しみだけではなく、憧れを抱いた。

貧しくても、辛くても、家族全員で笑って過ごしている。

家族とは、こんなに素晴らしいと、初めは臭いと思っていながらも、殺し殺されの世界に居るよりはずっと居心地が良かった。

うれしかった。


 鳰「ひっ、ぐすっ……うああああっ」

 春紀「ッ、はは、おいおい、そんなに強く抱かれたら、傷口がもっと開くって」


決壊した苦しみは大粒の涙と共に流れていき、春紀もまたその涙を受け止める為に胸を貸した。






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