過去ログ - 周子「アイドルでオトメなあたし」
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1: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:34:11.72 ID:0YsWS09W0
初スレ立てです。
ゆっくり、書いていきます。
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2: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:36:44.37 ID:0YsWS09W0
「うぅー。寒い、寒いっ」
天気予報は晴れのち曇り。北西の風が夕方から強まりますので、急な冷え込みには十分に注意しましょう。
3: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:38:48.23 ID:0YsWS09W0
ラジオのお姉さんの注意喚起は大当たり。
何のこれしき、暑いのは少々苦手だけれど、ちょっとやそっとの寒さであたしを負かすことはできませんよ。
いざ、勝負!
4: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:40:07.48 ID:0YsWS09W0
ついさっきまで、あたしがいたのはお城の舞踏会。
真白いドレスで身を飾り、華やかなティアラを煌めかせ、足にはもちろん、きらきら輝くガラスの靴。
5: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:42:00.23 ID:0YsWS09W0
紫色に塗りつぶされていく冬空の下を、冷たい風に追い立てられるようにみんなが行き交う。
疲れた顔をしたサラリーマン、けらけらと笑う大学生たち。
電話を片手に早足でお姉さんが向かう先は、職場?
6: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:43:35.94 ID:0YsWS09W0
奥歯をかたかた鳴らせながら、あたしは腕時計と目の前の幹線道路を交互に見やる。
右へ左へ、あたしの前を走り去っていく色とりどりの車、車。
その中に、見慣れた姿がもう来てはいないかと目を凝らす。
7: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:44:33.19 ID:0YsWS09W0
プロデューサーさんは、冷え切ったあたしの姿を見てなんと言うだろうか。
どうして外で待ってたんだ? 風邪をひいたらどうする?
アイドルなんだから、なにより健康に気を付けないと?
8: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:45:18.67 ID:0YsWS09W0
目に浮かぶのは、ぷりぷりと怒るあたしの王子様。
困ったな。怒られるのも、プロデューサーさんに心配をかけるのも、あまりいい気分でない。
今日だけだから、とあたしは首をすくめて一人呟く。
9: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:46:48.10 ID:0YsWS09W0
乃々ちゃんや日菜子ちゃんの受け売りではないけれど、女の子に生まれたからには、誰でも一度はマンガの世界を夢見るもの。
あたしとて、衣装を脱げば、多分どこにでもいる普通の十八歳。
少々他の人より遅い気もするけれど、そういうシチュエーションに対する憧れはみんなと同じくらいに、ある。
10: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:47:53.41 ID:0YsWS09W0
だから、今日だけ。
こんな天気になってしまったのは誤算だったけれど。
街路樹の下に停まったハザードランプの点滅に向かって駆け出す。
11: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:49:34.07 ID:0YsWS09W0
心配をかけたかもしれない、お小言が飛んでくるかもしれない。
でもなによりもまず、あなたはあたしにこう言うだろう。
そうしてあたしは、予想外の寒さに思わずぶるると身体を震わせながら、でも、他のアイドルたちにもファンのみんなにも、家族にだって見せないとびきりの顔でこう答えるのだ。
12: ◆oGGROSsMWw
2016/02/01(月) 00:50:06.36 ID:0YsWS09W0
「すまん周子、待ってたのか!」
「んーん。あたしも今、来たところだよ」
13: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:10:06.04 ID:QpfMQaPz0
●
西日はあっという間に暮れて、星はどんより、雲の向こうに隠れている。
14: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:12:02.93 ID:QpfMQaPz0
へっしょい!
やっぱり身体を冷やしすぎたのか、こらえきれずに大きなくしゃみが出た。
15: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:13:09.07 ID:QpfMQaPz0
どうしてだろうとあたしは少し考え込み、そしてすぐにその理由に気付く。
答えはプロデューサーさんの顔に大きく書かれていたのだもの。
寒い中、長いこと待たせてすまなかった、と。
16: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:13:44.36 ID:QpfMQaPz0
少し申し訳ないなと思ったけれど、あたしも何も言わないままにしておいた。
どこかで見ているアイドルの神様も、これくらいの嘘なら許してくれるはずだと思ったから。
いつもはみんなのアイドルシューコなのだから、今くらいは、誰かを夢見るオトメのシューコの顔をしていてもいいんじゃない?
17: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:14:26.69 ID:QpfMQaPz0
「早く戻って暖かくしないとな」
「そーだね。事務所のソファーが恋しー」
18: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:15:06.23 ID:QpfMQaPz0
車の流れは順調とは言い難い。停まって動いて、また停まって。
スピーカーから聞こえてくる、ノイズ混じりの軽快な音楽の合間に、カーナビがぽつりと呟いた。
この先しばらく、渋滞が続きます。
19: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:16:19.87 ID:QpfMQaPz0
信号が赤色に変わる。
「まだ冷えるか」とプロデューサーさんが問うてくるけれど、あたしの視線は、横断歩道のそばでショーウィンドウを覗いているカップルに釘付け。
短いスカート! こんなに寒いのに、すごい頑張り屋さんだ。
20: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:17:16.11 ID:QpfMQaPz0
ぴろぴろぴろ。
聞き慣れない電子音は、プロデューサーさんへの着信の合図。
21: ◆oGGROSsMWw
2016/02/02(火) 00:19:50.96 ID:QpfMQaPz0
ちひろさんかな、それともトレーナーさんかしら?
できるオトコ、と密かに業界各所で評判高いというその横顔をぼんやりと眺めていたあたしのそばに、役目を終えた黒色のスマートフォンがぽいと投げて寄越された。
カーステレオに車のエンジンが相槌を打ち、きらきら輝くネオンがゆっくりと後ろに流れはじめる。
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