過去ログ - 南条光「砂糖無しで、ミルクはいっぱい」
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11:名無しNIPPER[saga]
2016/02/21(日) 15:53:18.49 ID:vaXUSRZy0

 冷静に考えてみれば、彼がお休みで、あのお店は彼が気にしてるお店なのだから、鉢合わせする可能性は当然にあった。

 そうやって理由が幾つも浮かんでは消えた。しかし、疑問は一つとして振り払われなかった。

 (別にいいじゃないか)(なぜ、驚いた? 他人事じゃないのか?)(他人事じゃ……無いのか?)(来なければ良かった)(どうして?)(わからない)(なぜ?)(わからない)

 繰り返される自問自答に答えは見つからなかった。ただ、体を動かしてるうちに答えは見つかるというよく言われる話を信じて、とにかく行動がしたかった。

 女子寮に戻ってケーキを冷蔵庫に放り込み、オーブンを点けてすぐに調理を始めた。

(協力してくれたありすちゃんの為にも、作らなきゃ)

 まず、買っておいた製菓用チョコレートを片っ端から粉砕した。砕く、壊す、割る、刻む。ボウルに移し湯煎を開始。出来上がったチョコに水切りヨーグルトを混ぜ、なめらかになるまで混ぜた。

(約束を、守るんだ)

 キャラメル砕いたナッツ、コーンフレーク、一口大に切ったレモン漬けのバナナを混ぜ、市販のタルト生地に詰め込んだ。そして、最後にたっぷりとマシュマロをのせた。既にこぼれ落ちそうなそれの表面に溶かしバターを塗り、先ほどのチョコを流し込んだ。

(アタシの全力を見せるんだ)

 これを焼きあげること三十分。ミトンの手袋をつけて取り出し、常温に放置してあら熱をとった。それから冷蔵庫にいれ、一晩待つことにした。

(あと二個)

 足りなくなった材料をリストアップ、スーパーに駆け込んで補填し、また戻って調理を再開した。

 砕く・壊す・割る・刻む。湯煎をしてから、キャラメル砕いたナッツ・コーンフレーク・バター・マシュマロ。バターを塗ってからチョコをトッピングの谷に流しこみ、焼いて冷やした。

「あの、光さん、もう十時回ってますよ」

 作ることに夢中になっていて、ありすちゃんが帰ってきたことに気付かなかった。言われて時計を確認すると、確かに針が普段なら寝る時間を示していた。

「あ、……おかえりなさい。お仕事はどうだった?」

「その、とても眠いから、明日でいいですか」

 「もうこんな時間だもんな」と納得した旨を伝えたら、どうしてか「子供みたいに言わないでください」と少しだけ怒られた。謝るついでにお土産のケーキと勉強料代わりのタルトの場所を伝え、部屋に戻って行くのを見送ってから最後の一個を作り始めた。

 壊す・壊す・壊す・湯煎する。ナッツ・フレーク・それからマシュマロにチョコレート、Pさんの好きなものを入れて焼き上げた。そしてあら熱を取り、冷蔵庫に安置した。

(Pさんに、笑ってもらうんだ)

 今日はもう何も出来ない。キッチンの後片付けを済ませて部屋に戻り、ベッドに入って眠ろうとした。しかし、不安でいっぱいで睡魔がいつまでたっても訪れなかった。

 テンパリングは成功するだろうか、ちゃんと固まるだろうか、……彼の理想になれるような物を作れただろうか。日頃は棚に飾って見守ってくれてるヒーローの人形を取り出し、きゅっと握って抱きしめて瞼を閉じた。


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