過去ログ - 南条光「砂糖無しで、ミルクはいっぱい」
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10:名無しNIPPER[saga]
2016/02/21(日) 15:50:24.02 ID:vaXUSRZy0

 散々舌鼓を打ってから周囲を見渡すと、自分が酷く恥ずかしいものに感じられた。

 見渡す限りの男女・男女・男女・夫婦。甘い空気に相応しいのは舌の上に乗るクリームの残り香だけ。先ほどの喧嘩ップルはすでに退席していて、そこではもう別のカップルが仲睦まじく談笑していた。

 カップルの彼女は、お店の雰囲気に相応しい格好を当たり前のように着こなしていた。アタシのなんちゃってとは比較にならない、自然で暖かみのある装いの女性だ。

 そんな人がフォークから落ちそうなぐらいたっぷりのキャラメルショコラを鼻先に押し付けて「あーん」を企んでいるのだから、男性が困ったように笑うのは当然だった。子供のように無邪気で暖かい微笑みだった。

 お土産のケーキを購入して会計を済ませ、シャレオツ星からさっさと撤退した。そして、お店から、駅前から逃げるように飛び出した。

 運悪くも、外では春一番が吹き荒れていた。この風が止めば今後は温かくなるそうだけれど、今はただ皮膚に突き刺さるだけだ。

 (吹きすさぶ風がよく似合う……アタシはそれでいい……!)

 心の中で唱えるように繰り返し、服を吹き飛ばしそうな風を堪える。意地を張ってこちらも駆けだした。幸いこんな格好だ、アタシが何者なんかだなんて誰にも気付かれない。駅前のバス停を無視して全力で走り、三キロほど離れた公園の前のバス停の方を利用した。

 バスに揺られながら呼吸を整え、それからありすちゃんへのお土産を確認した。幸い、まったく型崩れしていない。これなら喜んでくれそうだ。

 窓の外で町並みが流れる。少し車酔いぎみだったから遠くを見たかったけど、降りだした小雨のお陰で風景は歪んでいた。

「P、その人は誰だよ」

 問いかけは『次、停まります』のアナウンスにかき消された。アナウンスがこのバスは女子寮の近くを走ってると教えてくれた。


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