過去ログ - 志希「フレちゃんがうつになりまして。」
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1:名無しNIPPER
2016/02/28(日) 22:56:41.62 ID:QoZsjp9vo
 あるひとりの少女のおはなし。
 女の子は1歳のとき、部屋のすみっこに転がっていたルービックキューブに興味をもった。
 カラフルな立方体をじっと眺めて、手にとって、ぺたぺたぺた。
 さてはて、ばらばらに配列されたこの赤や黄色にはどうやら法則性があるらしい。構成しているのは12の端ピースと8の角ピース。
 なるほどなるほど、遊び方はわかった。どうやらこの色を合わせてやればいいらしい。それじゃいっちょ戯れてみようかにゃ。
 女の子は120秒で立方体のカオス状態に秩序を与えてみせた。
 見守っていたダッドとママはなぜだかてんやわんやの大騒ぎ。
 
 信じられない、うちの娘は天才だ!

 写真に向けてポーズをとらされる、はいチーズ。パシャリ。
 女の子は要求通りにピースサインをしながら、こんなことを考える。
 あーあ、たった120秒しか暇つぶしできなかったなぁ、なんてね。

 それから少女は9歳でルービックキューブの数式を有群論を用いて証明してみせて、ダッドとママには甘いケーキとお固い物理学の本をいっしょに欲しがった。
 まわりのお年頃の子たちは、おとぎ話のプリンセスとかくまさんのぬいぐるみとかに興味津々だったけれど、少女の頭脳はピタゴラスの定理が成り立つ3の数を見つける方法でしめられていた。
 
 学校のテストが、答案用紙の裏にラクガキをどれだけ多く書けるかというゲームに成り果てたころ、少女は海の向こうのユニバーシティをつぎのお遊技場に選んだ。
 あそこのね、ランチはそこそこ美味しかったかな。ハンバーガーがね、手のひらよりおっきくてサワークリームがたっぷりかかってるやつ。あと陽射しは日本よりぽかぽかしててお昼寝には向いてたにゃ〜。
 あ、あるひとりの少女って前置きしてたけどね、これあたし、一之瀬志希ちゃんのはなしね、以後そこんとこよろしく、っていまさらか〜。にゃはは。
 そんじゃ話をもどそっか。
 えっと、スカンクのあのキョーレツな匂いを科学的に配合できるかの話だっけ。え、違う?
 あ、そうそう、大学の話、大学の話ね、うーんと、じつはあんま憶えてないんだよねー。

 だって、つまんなかったんだもん。

 たいそう権威があるという学会の発表会でド新米のあたしが気ままに論述してみせたあとに、教授が絶句して降参だというように一斉にペンを置いたことも。
 30年かけても解を導けなかった問を君のような年端もいかぬ子供が解き明かすなんてとても信じられんなと、恨み節たっぷりにいわれたことも。
 それからあたしが黒板にチョークをはしらせるたびに、おーまいがーという一言と共に四方八方からカメラのフラッシュが炊かれたことも。

 ぜーんぶ、どうでもよかった。    
 あたしにとっては、どれもこれもルービックキューブの色を揃える程度の暇つぶしでしかなかった。

 それからなんやかんやあってアイドルになって。
 なんやかんやってとこは省略するね、説明すると長くなるし疲れるし、そんでそんで、アイドルになって宮本フレデリカちゃんとデュエトを組んだ。
 レイジー・レイジーだって。「だらけている」2人組だって、おもしろー。

 フレちゃんはね、とっても刺激的。
 だってさ、このアイスおいしいねって話してたと思ったらいつのまにか南極大陸の話題を経由してペンギンはなんでお空を飛べないのかって議題にすり替わっちゃうんだよ。
 それは水泳や歩行能力に特化するために飛翔能力を捨てるように進化してったからだよってあたしが答えるとフレちゃんは、
 へー、じゃあ人間も昔はお空飛べたのかな、そんで雲の上をふわふわしてだらだらしてたんだけど、やっぱり地に足つけてしっかり生きていかにゃいかんって思い直して飛ばなくなったのかなー、そう考えると日本のサラリーマンってえらいねー、なんて。

 あたしは教授が仏頂面でカッチリ型にはめこんで導く理論よりも、フレちゃんが笑いながらその日の気分で導く理論のほうが、好みだった。
 フレちゃんは、あたしの想定を軽々と飛び越えてくる。

 そんなフレちゃんがある日ぽつりと呟いたひとこと。


「なんだか、消えてなくなりたいなぁ」


 あたしに何度も投げかけられた“信じられない”という言葉をひゃっぺん繰り返しても足りないくらい。


「なんだかこのままね、お空をどこまでも飛んでって、いなくなっちゃいたいかなぁ……」

 
 フレちゃんの身に信じられないことが、起こったのだ。



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