526: ◆8zklXZsAwY[saga]
2016/08/28(日) 15:28:04.70 ID:jS9uIrpkO
校門の前までたどり着き、胡桃は車を徐行させ、ウインカーを出し左右を確認した。
永井「なんでウインカー出してるんだよ」
胡桃「あ、そっか。つい」
由紀「くるみちゃんが成長したってことだよ、けーくん」
悠里「遠足のときはヒヤヒヤしたわよね」
胡桃「おまえらな」
美紀「……ふふっ」
車内で交わされる先輩たちの会話を聞きながら、圭は、あの黒板を見るのだろうか、と美紀は思った。そのためには、まず三階まで階段でのぼらなければならない。かれらのように、ゆったりよろよろ歩くすがたを見ると、それには時間がかかりそうだ。それでも、いつか、わたしの書き残したことを読んでほしい。わたしは生きていてよかったと、あの黒板に書き残してきたのだから。
そしてまた、圭とおなじ名前をしたこの人にもあの黒板を見てほしい、とも美紀は思った。チョークで描いた似顔絵はけっこううまく描けたとおもう。もしかしたらそのせいで、情報が残ることをいやがって似顔絵を消してしまうかもしれない。でももし、そうしてしまうなら、消してしまうまえに、じっくり絵を見る時間があってほしい。それくらいよく描けた似顔絵なのだ。
美紀が見た“かのじょ”が、学校の昇降口に消えていく。車は校門をぬけ、五人が学生であることをやめ、何者でもない時間をすごす場所へと旅立っていく。永井は頬杖しながら、静かに両目を閉じていた。美紀は目線を窓の外にもどし、しばらく景色を眺めたあとで、あの黒板のことをもうすこし考えいたいとおもい、目を閉じて、そっと窓ガラスに額をあてた。美紀はおもいきって「仰げば尊し」の歌詞を口ずさんでみようかと考え、窓をすこし開けた。音は空気や物質の振動によって空間に波及する弾性波だ。美紀は、音が空間だけでなく時間にも響いて渡り、過去にも未来にも届けばいいなと思い、閉じていた唇をすこし開けた。
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