過去ログ - ヴェロニカは一撃で死ぬことにした
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1: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:18:05.43 ID:0aWAafos0
1

その少女の名前はヴェロニカといった。
歳は18そこいらといった所かな。
うっすら残るそばかすが、歳よりもずっと若く見せ、ピンク色したくりくり巻き毛が、すばらしく可愛い女の子だった。

今、その子はまったくもって可愛くない、無骨な拳銃なんかを握りしめ、ぎらぎらと輝く目でマガジンの部分を確認してる。
どこで手に入れたのやらその拳銃で、どうやら彼女は死ぬつもりらしい。

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2: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:20:40.35 ID:0aWAafos0
今から死のうっていうはずなのに、彼女はぜんぜん暗い顔なんてしていなかった。
いや、むしろ明るい顔をしていたね。口元にははにかみ笑顔なんか作っちゃって、これから起こる事が、うれしくて、うれしくて、たまらないって顔をして、彼女は拳銃を口にくわえた。

これは知らない人も多いだろうけど ……ほら、こめかみに銃をあてて自殺するシーンって、ドラマかなんかでよく見るよね?
実は、あれってなかなか死なないんだ。
以下略



3: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:22:44.86 ID:0aWAafos0
人の生きる力は偉大なんだ。その点ヴェロニカはよく勉強していたね。
頭の中身を自分の後ろに全部ぶちまけるつもりで、口にくわえた銃口をななめ上に向けて撃てば、さすがに死ぬ。

そう、ヴェロニカは死にたいんだ。

以下略



4: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:25:51.03 ID:0aWAafos0
ヴェロニカが親指で引き金を引くと、すさまじい音がして、いねむりしていたネズミが文句を言いながら逃げてった。
けど、ヴェロニカは知らん顔さ。
当たり前だよね。頭をふっ飛ばしたんだから。

ヴェロニカのうしろにある壁は、トマト・ソースを塗ったくったように真っ赤っ赤さ。
以下略



5: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:27:20.21 ID:0aWAafos0
とにかくこれで、ヴェロニカは目的を達成した訳だ。
ごらん、彼女の ……かろうじて残った口元を。
歯を見せて笑っているだろう?
ヴェロニカは死にたかったんだ。だから今、ヴェロニカは笑っている訳だ。

以下略



6: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:29:43.58 ID:0aWAafos0
けれど、よーく見てほしいんだ。ほら……死んだはずのヴェロニカを。彼女の頭の所をごらん。
シュウシュウと白いケムリが出ているだろう?
ボコボコっていう音も聞こえるはずだ。
見間違いなんかじゃあない。空耳なんかでもないんだ。ほら、目をこすっている場合じゃないよ。


7: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:32:22.43 ID:0aWAafos0
君が見間違いかと思って目をゴシゴシしている間に、無くなったはずのヴェロニカの頭は、どんどんぼこぼこ増えていった。
君が聞き間違いかと思って耳の穴をグリグリしている間に、ヴェロニカのくりくりしたピンク色の巻き毛が、つるつるの頭からズルズル伸びていった。
そして、君がびっくりして目をパチパチしている間に、ヴェロニカはどんよりした目を開いた訳だ。


8: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:34:38.03 ID:0aWAafos0
口からは大きな大きなため息がもれる。先程までの明るい顔がウソのようさ。
ヴェロニカは周囲をゆっくり見渡し、ここが天国じゃあなく、地獄でもなく、自分の住んでる汚いちいさなアパートの一室だって事を改めて認識して、こうつぶやく訳だ。

「ああ……また死ねなかった」


9: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:36:23.69 ID:0aWAafos0
……どうして死んだはずの彼女が、またこうして生き返ったかというと、これには深い訳がある。

この世に産まれてくる人はみんな、おとうさんの思いと、おかあさんの愛と、かみさまの気まぐれを受けて産まれてくる。
それらが時として、ふかくふかく身体に染み付いて、一種のおまじないみたいなものになる事があるんだよ。


10: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:38:30.81 ID:0aWAafos0
この世界の人はみんなそうさ。たとえば三丁目のパン屋のサムさんは、パン焼きの才能がとんでもない。彼がパンを焦がした所なんて、お天道さんだって見たことがないね。
きっとサムさんのおとうさんとおかあさんは、お店を継ぐ長男として、そんな子供を願ったんだろう。

学校の先生のゴードンさんは、どんな数式でも五秒あれば解いてしまう。パソコンだって彼には白旗を振るくらいだ。
ゴードンさんのおとうさんとおかあさんは、きっと素晴らしい頭脳の持ち主が産まれるように、かみさまに手を合わせたんだね。


11: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:40:41.92 ID:0aWAafos0
つまり、ヴェロニカのおとうさんとおかあさんは、こう願ってしまった訳だ。

「産まれてくる子に、どんな事があろうとも ……強く、たくましく、生きますように」

その願いが叶って、今、ヴェロニカはこうして生きてる。
以下略



12: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:43:00.02 ID:0aWAafos0
さて、頭がしっかり元に戻ったヴェロニカだったけど、どうにもせきがとまらない。

げほげほ、ごほごほ、おほんおほん。

しっかり元に戻ったように思ったけれど、どうやら綺麗に治らなかったみたいだ。
以下略



13: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:45:00.68 ID:0aWAafos0
ヴェロニカじゃあなくっても、あのお医者様の所に行く人はみんな、重苦しいため息をつくんだよ。
名医なのは間違いないけど、この町の人は誰も行きたがらないんだ。

何故かって?病院のドアをくぐればわかるさ。


14: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:47:41.41 ID:0aWAafos0
「おおー、ヴェロニーカー。あなた、まーた、ららら、自殺なんてしましたーねー」

ヴェロニカの耳に大音量のオペラなんかが聞こえてくる。
何を隠そうこの歌声の主こそが、この町のお医者様なんだ。

以下略



15: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:50:35.57 ID:0aWAafos0
「先生、先生、聞いて下さい。わたし、銃で頭を撃っても、ぴんぴんしているんです。げほん」

「じゅうーなんて、あなた、ららららー、何処でそんな、危険なもーのーをー」

「げほん、ごほん、ギャングのタップ親分です。ほら、げほごほ、タップダンスが大好きな」
以下略



16: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:53:03.97 ID:0aWAafos0
死ねないヴェロニカにとってはそんなの、危険でもなんでもないんだな。
彼女はどうどうと事務所までいって、にらみつける親分の前でひとつ、タップダンスを踊ってみせた。
それはそれは綺麗なもんさ。子分どもが銃を突きつけてるっていうのに、ヴェロニカはタンタントトンと一曲、華麗にダンスを踊ってみせた。
それを見たタップダンス好きの親分は、びっくりするくらいの満面の笑みさ。


17: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:55:25.99 ID:0aWAafos0
「なんてえ踊りだ。おれは産まれてこのかた、こんな踊りは見たことねえ。お嬢ちゃん、お前、ただもんじゃあないな」

そんなことをニコニコと、孫娘に話しかけるみたいにヴェロニカに言う。
子分はすっかりあきれ顔さ。こうなっちゃった親分は、もう誰にも止められないって、彼らはよーく知ってるんだから。

以下略



18: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:57:14.40 ID:0aWAafos0
「頭をずどんって撃ったんです。げほげほ、中身を全部まきちらすつもりで。けどそれから、どうにもせきが止まらなくって。えへん」

「それはいけませーんねー。たらら、おおー、ではすこし、見てみましょーうかー。わおおー」

といって、金属のヘラをヴェロニカの口に入れる訳だけど、歌うたびにヘラがぶるぶる揺れるから、どんな怪我でも治るヴェロニカでも、さすがにひやっとしちゃったよ。
以下略



19: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 14:58:49.30 ID:0aWAafos0
「吹き飛ばした脳のかけらが、らら、器官に入ったようですね。うーらー、このお薬で、ほおお、うがいをしてください、ふわわー」

がらがら、ぺっ。がらがら、ぺっ。何度か薬を吐き出すと、のどのあたりがスッキリとして、ヴェロニカのせきは綺麗サッパリ止まってしまった。
歌をうたわなければ素晴らしい先生なのにな、と、ヴェロニカはつい失礼な事を考えたね。


20: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 15:00:10.96 ID:0aWAafos0
「ありがとうございます、先生。すっかり良くなりました」

「これにこりたら、ふううー、もう自殺なんて、やめることですね。うおおー ……」

お医者様はマイナー調でヴェロニカに言う。
以下略



21: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2016/03/19(土) 15:02:31.97 ID:0aWAafos0
その日、ヴェロニカと、ヴェロニカのおとうさんと、ヴェロニカのおかあさんは、車に乗ってた訳なんだけど。
小さなヴェロニカが、大きなお魚を見たいって言ったもんだから。
4人乗りの小さな車で、大きな海の近くにある、小さな水族館まで。
ひとっ走り行く所だったんだけど。

以下略



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