10:名無しNIPPER[saga]
2016/03/22(火) 01:05:58.60 ID:w8NWr5C/0
「……プロデューサーってさ、どうなの」
「どうって?」
「死ぬの?」
「死ぬんかなぁ」
深い溜息。
世界の終わりが来たらどうする、なんていうくだらない質問がちゃんと質量を持って蘇る。
手を伸ばして机の上にある紙の束を取って、並んである文字に目を向けた。
難しい言葉で書かれてる書類や何かの契約書、病室での過ごし方について分かりやすく書いてくれているプリント、そのどれもが等しく杏にはどうでもいいものに思えてしまう。
そこには彼のお仕事の書類もたくさんあった。仕事バカにも程がある。
杏と一緒に寝てくれるとか言ってたくせに。
書類をわざとらしく見せびらかしながら彼の方へ視線を向けると、引き継ぎみたいなものだと目を逸らしながら言い訳された。
まぁ、この人がこうなのは今更文句言うこともないか、きっと本当に死ぬまで働いて死ぬんだ。杏とは全く違う。
いらなそうなプリントを適当に選んで束にして折り、枕代わりにする。寝心地は当然最悪だ。
ああ、もう、それにしたってめんどくさい。
彼と同じベッドに着いたし、もう世界の終わりが今すぐにでも来たっていい。
このまま二人で眠って、永遠に目覚めなくたって別にいい。
今は油断すると色んなことを考えてしまって怖くなってしまう。
目を閉じたら、転がっていたラジオのイヤホンから「誰も一人じゃない」と音楽が流れてきた。
その音を無視して他の音に耳を澄ませてみれば、そばで聞こえる彼の息遣い。どこかで鳴る空調の音。遠くから響く車の音。こそこそと鳴る自分の心臓の音。
今、世界中でここだけが杏の唯一の逃げ場だった。
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